「地域課題解決」ビジネスはなぜ難しいのか|6次産業化・空き家活用のデータで見る傾向と対策
「地域課題解決」ビジネスはなぜ難しいのか|6次産業化・空き家活用のデータで見る傾向と対策
「地域課題を解決するビジネス」は、聞こえがいい。一次産業を盛り上げるための6次産業化、空き家を資源に変える取り組み——耳当たりのいい掛け声は、この10年で数えきれないほど語られてきた。だが実際のデータを見ると、掛け声ほどにはうまくいっていない。この記事に、魔法のような解決策は書けない。ただ、6次産業化と空き家活用という2つの代表的な「地域課題解決」の実績データを確認したうえで、なぜ課題がそのままビジネスに転換しにくいのかを構造から考えておきたい。
- 6次産業化は法制化から10年超が経過したが、農業生産関連事業の年間販売金額はここ数年横ばい〜減少基調。黒字化までの平均期間は4.1年、業態によっては9年近くかかる
- 数字の裏側には「栽培」と「デザイン・ブランディング・販路開拓」が別能力であるという現場の壁があり、ヒット商品はそう簡単には生まれない
- 空き家は自治体の空き家バンクや税制改正が進んでも減っておらず、2023年調査で900万戸・空き家率13.8%と過去最高を更新し続けている。本質は「使いたい人がいない」という需要不在
- 「課題があるからチャンスがある」は事実だが、「理由があるから課題がある」のも同じくらい事実。地域課題の多くは、この後者の力学のほうが強い
- 結論は「地域課題を丸ごとビジネスにする」という発想そのものを見直すこと。無理なものは無理として、形を変える必要がある
「地域課題を解決するビジネス」という、耳当たりのいい言葉
一次産業を盛り上げるため、6次産業化だ。空き家を資源に、使わないものを使えるようにしよう。——このテのスローガンは、この10年でいくつも聞いてきたはずだ。1次産業×2次産業×3次産業=6次産業、というかけ算のネーミングは秀逸で、意欲のある首長や自治体、地域金融機関を巻き込みながら、全国で数多くのプロジェクトが立ち上がった。空き家についても同様で、「移住×リノベーション」「空き家バンク×関係人口」といった掛け合わせが、地方創生の目玉施策として繰り返し語られてきた。
私自身、上場企業の経営企画としてM&Aや新規事業に関わる一方、個人としては一次産業から六次産業までの現場を継続して見てきた。結論から言うと、このテーマは「コンサルがエイッとやれば解決する」類のものではない。かといって、担い手の能力が足りないから失敗するわけでもない。もっと構造的にしんどい話だと感じている。感覚だけで話しても説得力がないので、まずはデータで裏付けておきたい。
断っておくと、この記事は「6次産業化はやめたほうがいい」「空き家は放っておけばいい」という記事ではない。実際にうまくいっている事業者も、少数だが確かに存在する。ただ、その少数の成功例だけを取り上げて「地域課題はビジネスになる」と結論づけるのは、統計上のノイズを法則だと勘違いするのと同じだ。まずは全体の傾向を見たうえで、その成功例がなぜ例外なのかを考えたい。それが「傾向と対策」というタイトルの意味でもある。
データで見る現実① 6次産業化のいま
6次産業化は、2011年3月施行の「六次産業化・地産地消法」を根拠に、国が「総合化事業計画」の認定というかたちで後押ししてきた制度だ。10年以上が経過した今、実績はどうなっているだろうか。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 総合化事業計画の累計認定件数(法施行〜令和3年度末) | 約2,600件 |
| 農業生産関連事業の年間総販売金額(令和2年度) | 2兆329億円(前年度比▲2.1%) |
| 漁業生産関連事業の年間総販売金額(令和5年度) | 2,328億円(前年度比▲1.7%) |
| 黒字化までの平均期間(日本政策金融公庫調べ) | 4.1年 |
| 業態別の黒字化年数(同上・最短〜最長) | 農家レストラン3.1年〜養豚8.8年 |
10年余りで累計認定件数が約2,600件というのは、日本の農業経営体数(100万を超える規模)から見れば、決して多い数字ではない。しかも農業生産関連事業全体の年間販売金額は、直近では前年割れが続いている。「6次産業化を頑張れば所得が増える」という掛け声のわりに、市場全体としては横ばいか微減という、地味な現実がある。
この数字が意味しているのは、「軌道に乗るまでの我慢の期間」ではなく、「その間、事業を支え続けられるだけの体力(別の収入源、または補助金)が必須である」という前提条件そのものだ。とりわけ養豚の8.8年は、平均的な中小事業者の資金繰りでは単独でとても持たない年数であり、実質的に本業の収益か補助金に依存し続けなければ成立しない構造になっている。
加えて、各都道府県の6次産業化サポートセンターは、運営主体が初年度・2年目で入れ替わった事例が16県にのぼるというデータもある。支援する側の体制すら、腰を据えて定着しきれていない。
良い作物が取れても、ヒットにならない理由
数字の裏側で、現場では何が起きているのか。6次産業化でよく見る壁は、「栽培」と「デザイン・ブランディング・販路開拓」が、まったく別の能力だという事実だ。良い作物を作れる人が、パッケージデザインや商品コンセプト、価格戦略まで一人でこなせるとは限らない。むしろ稀だ。生産者に「加工品を作りましょう」「パッケージを作りましょう」と持ちかけても、その先の「売れる形にする」部分を担える人材が、地域には圧倒的に不足している。ここが埋まらないまま加工・直売だけを増やしても、ヒット商品はそう簡単には生まれない。
関アジ・関サバのような、産地とストーリーが一体化したブランドは確かに強い。ただ、これは一次産業のブランド化としては、数少ない成功例の部類に入る。同じ発想で「よそより甘い」「よそより辛い」といった味の差別化で野菜をブランド化しようとするのは、土台無理がある話だ。品種・気候・土壌といった一次産業の本質的な条件は、後付けのブランディングでどうにかできる範囲を超えている。淡路島のたまねぎや徳島のゆずのように、地域と作物が結びついたブランドが根付いている例もあるが、これは長い年月と、他にはない条件が重なった、かなり例外的なケースと見たほうがいい。
そもそも、一次産業にそこまで手を加えるべきなのか、という疑問もある。すべての農作物にブランドを付加するのは現実的に難しく、仮にできたとしても、そのブランドが押し上げられる売上の上限(アッパー)は、決して大きくない。一つの成功事例を、全体に当てはめようとすること自体に無理がある。
「巻き込み続ける力」というコスト
6次産業化で加工品やパッケージを主導し続けるには、強い理想と、これで行けるという確信、そして周囲を巻き込み続ける力が要る。これは軽く見られがちだが、実際にはかなりのリーダーシップコストだ。農家の方々も、他の関係者も、みな日々の仕事で忙しい。そこに「うまくいくはずだ」というイメージを持たせ続け、実際に頑張ってもらう、というのは簡単なことではない。
漁業の6次産業化に近いテーマを扱った「ファーストペンギン!」というドラマがある。詳しくは触れないが、普通とは違うやり方に挑むことが、現場にとって確実な負担になる様子は、見ていて実感が持てるはずだ。だからこそ、外部の人間が思いつきで「これをやりましょう」と提案するのは、慎重であるべきだと思う。むやみに提案するべきではない、というのが、現場を見てきた実感としての結論だ。
データで見る現実② 空き家活用のいま
空き家についても、確認しておきたい。総務省が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」の最新値(2023年)は、次の通りだ。
| 指標 | 2023年時点 |
|---|---|
| 全国の空き家数 | 約900万戸(過去最多) |
| 空き家率 | 13.8%(過去最高) |
| 2018年からの増加数 | 51万戸増 |
| 「その他空き家」(活用の見込みがなく放置されている空き家) | 349万戸(この20年で約1.9倍) |
| 国土交通省の目標(2030年) | 「その他空き家」を400万戸程度に抑制 |
空き家バンクの整備、リノベーション補助金、2023年施行の空家対策特別措置法改正など、この10年余りで打てる政策はかなり打ってきた。それでも空き家の実数は一貫して増え続け、5年ごとの調査のたびに過去最高を更新している。象徴的なのは、国土交通省自身が掲げる目標が「減らす」ではなく「増加ペースを400万戸程度に抑える」というものになっている点だ。行政も、この問題を短期間で反転させることは前提にしていない。
これは、空き家の「発生スピード」そのものが問題だからだ。高齢化と相続によって、毎年一定数の住宅が新たに空き家化していく。一方、リノベーションや売買によって空き家が解消される件数は、立地や築年数の条件がいい一部の物件に限られる。つまり「蛇口から流れ込む水の量」が、「排水される水の量」を上回り続けている限り、個々の空き家活用事業がどれだけ成果を上げても、全体としては水位が上がり続ける。一軒一軒のリノベーション事業は決して無意味ではないが、それだけでは全体の増加傾向を覆せない、という規模の問題がある。
そもそも、なぜその空き家は空き家なのか
もう一つ、押さえておきたい視点がある。空き家が空き家であり続けているのは、多くの場合、「使う人がいない」「使いたい人がいない」からだ。当たり前のようだが、この当たり前を見落とした施策が少なくない。
一時期、「空き家に住まわせてしまえばいい」という発想が広がった。だが、これはいささか乱暴な話だと思う。使いたい人がいないから空き家になっているものを、無理に使わせようとしているのだから。これだけ住宅が余っている時代に、「その空き家に住んでください」と勧めるのは、想像以上にしんどい話だ。移住希望者を、需要のない空き家にあてがうような進め方は、乱暴を通り越して、住まわせる側の都合を移住者に押し付けているだけだとすら思う。
需要のない不動産に、需要のない住まい方を無理やり接続しようとしても、うまくいかない。空き家問題の本質は「モノが余っている」ことではなく、「そのモノを誰も欲しがっていない」ことにある。ここを見誤ると、空き家バンクや移住施策は、掛け声だけが先行し続けることになる。
課題があるからチャンスがある、は本当か
「課題があるところにビジネスチャンスがある」——これ自体は間違っていない。困りごとを起点にビジネスが立ち上がった例は、いくらでも挙げられる。
- 記帳や経理の手間という課題 → クラウド会計ソフト
- 家庭の不用品処分という課題 → フリマアプリ
- 採用がうまくいかないという課題 → 人材紹介・求人メディア
- 広告効果が見えないという課題 → 運用型広告・広告代理店
記帳や経理の手間に困っている中小企業は、日本に何百万社とある。しかも会社が存続する限り、その手間は毎月確実に発生し続ける。ここに「月額いくら」というサブスクリプション型の対価を払う理由が生まれる。フリマアプリも同様で、家の中の不用品は誰にでもあり、売れれば手数料を払ってでも現金化したいというニーズは景気に関係なく安定して存在する。採用や広告も、企業が事業を続ける限り繰り返し発生する課題であり、しかも解決できなければ売上や採用計画に直接響くから、経営者は予算を確保してでも解決しようとする。
これらに共通しているのは、「困っている人」がそのまま「お金を払う人」であり、しかもその市場が横ばいか拡大していたということだ。だからこそ、一つの解決策を作れば、それを何度も横展開して売ることができる。開発コストは一度払えば、あとは顧客数に応じて収益が積み上がっていく。これが、課題がビジネスとしてスケールするときの典型的な構造だ。
では、地域課題や一次産業の課題は、同じ意味で「ビジネスに結びつく課題」なのだろうか。
なぜ地域課題は、ビジネスに転換しにくいのか
課題があるから、チャンスがあるというのは紛れもない事実だ。一方で、理由があるから課題がある、というのも同じくらい事実である。地域課題や一次産業の課題は、多くの場合、後者の力——構造的な理由——のほうが強く働いている。整理すると、ビジネス化しやすい課題と、地域課題によく見られる特徴には、次のような違いがある。
| 観点 | ビジネス化しやすい課題 | 地域課題・一次産業の課題 |
|---|---|---|
| 困っている人=支払う人 | 一致していることが多い | ズレていることが多い(困るのは住民・自治体、担い手には支払能力が乏しい) |
| 市場の方向 | 横ばい〜拡大 | 人口減少で構造的に縮小中 |
| 型化・横展開のしやすさ | 標準化してスケールしやすい | 土地・気候・作物・後継者の有無がバラバラで個別対応になりやすい |
| 回収サイクル | 短期間で効果が見えやすい | 黒字化まで平均4.1年、長いものは9年近く |
この4つの観点で見ると、地域課題や一次産業の課題は、そもそもビジネスとして成立させるための前提条件を、最初から満たしていないケースが多いことが分かる。困っている当事者に支払能力がなければ、事業として成立させるには行政の予算や補助金に頼るしかない。市場そのものが縮小していれば、どれだけ優れた解決策を作っても、パイの奪い合いにしかならない。個別性が強ければ、コンサルの「型」を持ち込んでも、効くかどうかは現場ごとにばらつく。回収サイクルが長ければ、事業として持ちこたえる体力そのものが問われる。
「うまくいかないのは、担い手の努力や能力が足りないからだ」という見立ては、多くの場合ミスリードだ。優秀な経営者や自治体職員が知恵を絞っても、支払能力のない市場、縮小し続ける市場、個別性が強すぎて型化できない市場では、構造的に成果が出にくい。これはコンサルティングで「エイッ」とやって解決する類の問題ではなく、参入する前に構造そのものを疑うべき領域だと考えている。
4条件のうち、いずれかを構造的にクリアしているケースが多い。たとえば加工品を都市部の富裕層や海外向けに直接販売し、地域の相場ではなく都市部の相場で対価を得ている場合、「支払能力のズレ」を解消できている。あるいは複数の生産者から原料を集約し、一つの加工・販売の仕組みを横展開している場合、「型化しにくさ」を克服できている。成功事例の多くは、精神論ではなく、この4条件のどれかを具体的に潰し込んでいる。
そうではない。ここで指摘しているのは「単体の営利事業として黒字化を狙う設計」の難しさであり、関係人口の創出や地域の担い手育成といった、そもそも事業の黒字化を目的にしていない取り組みの価値を否定するものではない。問題は、政策的な意義がある取り組みと、事業として自走すべき取り組みを、同じ物差しで評価してしまうことにある。次の章で触れる通り、両者は最初から目的として切り分けたほうがいい。
では、地域課題解決はどうしていくべきか
正直に言えば、この記事に、地域課題を魔法のように解決する処方箋は書けない。ただ、構造がここまではっきりしているなら、少なくとも「同じやり方を繰り返して、同じように苦戦する」ことは避けられるはずだ。私自身の考えはシンプルで、「無理なものは無理なので、形を変えるべき」というものだ。具体的には、次の3つの発想の転換が要ると考えている。
① 「地域課題をビジネスで丸ごと解決する」という発想をやめる
本来、政策・寄付・移転収入(補助金・ふるさと納税など)で支えるべき領域と、純粋な事業として黒字化を狙える領域は、最初から分けて設計すべきだ。両者を一つの事業計画に混ぜ込むと、「補助金なしでは回らないのに、補助金頼みではないという体裁を取り繕う」という、誰も幸せにならない事業計画になりやすい。地域課題の解決と、事業としての黒字化は、目的としていったん切り離して考えたほうがいい。
② 「地域」ではなく「地域の中の、支払能力がある一部」を狙う
地域課題解決といっても、地域全体・一次産業全体を一括りに救おうとする必要はない。実際に黒字化のポテンシャルがある一部の事業者、条件のいい一部の空き家、需要が見込める一部の商品だけに絞り込んで支援するほうが、成功率は上がる。全部を解こうとする発想こそが、この分野でよく見る失敗パターンの一つだと感じている。選別することは、冷たいことではなく、続けるための前提条件だ。
③ 補助金を「延命装置」ではなく「回収サイクルを縮める装置」として使う
6次産業化の黒字化まで平均4.1年、というのは裏を返せば「初期投資さえ乗り切れれば黒字化できる事業者は一定数いる」ということでもある。補助金は、赤字を先送りするために使うのではなく、この回収サイクルを1年でも2年でも縮めるために使うべきだ。目的が違えば、審査基準も、支援すべき対象も、当然変わってくる。
実務的には、「補助金が終わったら事業を畳む前提」の計画と、「補助金は初速をつけるためだけに使い、その後は自走する前提」の計画を、申請段階で明確に書き分けることから始まる。この2つを曖昧にしたまま計画書を書いてしまうと、審査する側も、支援する側も、本当に黒字化を狙っているのかどうかを判断できなくなる。
うまくいくかもしれない、具体的なパターン
抽象的な話ばかりでは実務に落とし込みにくいので、実際に成果が出ている、あるいは出そうな具体的なパターンをいくつか挙げておく。共通しているのは、先ほどの3つの発想転換のどれかに当てはまっているという点だ。
パターン① 機能を切り出して、専門組織に任せる
「良い作物が取れても、ヒットにならない」という壁の解決策は、生産者一人ひとりにデザイン力や商品企画力を求めることではない。宮城県仙台市の一般社団法人みのりは、自社で農業生産を行わず、地元農家と組んで加工品の企画・販売だけを専門に担う「みのりFactory」を運営している。生産は農家、企画・加工・販売は専門組織、と役割を分けることで、一軒一軒が「栽培」と「デザイン」の両方を抱え込まずに済む。地域全体で機能を分業する、という発想の転換だ。
パターン② 全部売ろうとせず、一点に絞る
青森県弘前市の株式会社百姓堂本舗は、自社栽培のりんごを使った加工品を手広く展開するのではなく、シードル(りんご酒)一点に絞り込んで「弘前シードル工房kimori」を立ち上げた。結果、売上高は460万円(2012年)から3,700万円(2016年)まで、4年で約8倍に伸びている。「すべての作物にブランドを付ける」のではなく、「一つの商品だけに資源を集中する」ことで、アッパーを超えた例と見ていい。
パターン③ 外部の専門知見を、借りてくる
長崎県南島原市の農事組合法人サンエスファームは、しいたけの加工品開発にあたり、プロの料理人の助言を取り入れ、対面販売やバイヤーとの商談を通じて市場のニーズを把握しながら試作を重ねた。取り組み前後で売上は2億4,600万円から3億8,300万円に伸びている。デザインやブランディングの力が社内にないなら、無理に内製しようとせず、外部の専門家を巻き込む方が早い。鹿児島県霧島市のヘンタ製茶も、海外バイヤーを直接招いて有機JAS認定の圃場や工場を見てもらい、輸出先に保管倉庫を確保するところまで踏み込んで、地域の相場ではなく海外の相場で対価を得る仕組みを作っている。支払能力のズレを、販路そのものを変えることで解消した例だ。
パターン④ 需要を先に決めてから、空き家を割り当てる
空き家についても、順番を変えるだけでうまくいっている例がある。徳島県神山町の「ワークインレジデンス」は、空き家バンクに登録してとりあえず希望者を待つのではなく、「町にパン屋がないから、この空き家はパン屋限定で貸します」というように、町にとって必要な職種を先に決め、その職種の希望者だけをピンポイントで受け入れる方式を取った。移住希望者にも「何を目指しているか」を書いてもらい、需要と一致する人だけを迎え入れる。「使いたい人がいないものを、とにかく使わせる」のではなく、「使いたい人を先に見つけてから、合う空き家をあてがう」という順序の転換だ。神山町はこの取り組みなどを通じて、地方では珍しい人口の社会増を記録している。
この4つに共通しているのは、「全部を、誰にでも」ではなく、「一部を、狙って」やっているという点だ。地域全体・一次産業全体を丸ごと解決しようとするのではなく、機能を分業し、商品を絞り、外部の知見を借り、需要を先に決める。派手さはないが、これが「無理なものは無理」を前提にしたうえで、それでも打てる具体的な手だと考えている。
実際に組んでみると:機能受託型のビジネスモデル一案
パターンの話だけでは、まだ抽象的かもしれない。ここまでの原則を、実際に一つのビジネスモデルとして組んでみる。地域課題そのものを売るのではなく、パターン①「機能を切り出して、専門組織に任せる」を、一次産業事業者向けの受託サービスとして設計した場合の一例だ。
課題設定
6次産業化に挑む生産者の多くは、「作る力」はあっても「売る形にする力」(パッケージ、EC運用、撮影、販路開拓)がない。かといって、その機能を一社ごとに内製・外注するには体力が足りない。ここを埋める、というのが出発点になる。
対象を絞り込む
全業種・全地域を丸ごと救おうとはしない。対象は「すでに加工品を1つ以上持っているが、年商が伸び悩んでいる事業者」に限定する。これから加工品を検討する段階の事業者は回収サイクルが長すぎるため除外し、後継者不在で数年以内に廃業リスクがある事業者も対象から外す。まずは数社限定のパイロット運用から始める。
提供する機能は、型化して横展開する
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| ブランディング | 撮影・パッケージデザインを共通テンプレートで対応し、1社ごとにゼロから作らない |
| 販路開拓 | ふるさと納税の返礼品化、都市部バイヤーへの接続を型化した営業資料で一括対応 |
| EC運用 | 共通のEC基盤に相乗りさせ、在庫・発送フローも標準化する |
生産者ごとに専属担当を置くのではなく、一つの型を複数社に使い回すことで、1社あたりの対応コストを下げる。これが「良い作物が取れても、ヒットにならない」で触れたデザイン力の不足を、内製ではなく外付けで解決する具体策になる。
収益モデルの設計
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 初期構築費 | 撮影・パッケージ・EC初期設定を一式で提供 |
| 月額運用費 | EC・在庫連携・SNS運用代行として、事業者1社あたり定額で徴収 |
| 成功報酬 | ふるさと納税・EC経由の新規売上に対して一定割合を徴収 |
初期費用を抑えたサブスク型と成功報酬を組み合わせることで、生産者側は「まとまった投資をしてから4年待つ」というリスクを丸ごと背負わずに済む。売上が伸びるほど提供側の収益も連動して増えるので、双方の利害が一致しやすい設計になる。
支払能力:ふるさと納税・都市部バイヤーという、地域内消費者より支払能力の高い層に接続するので、担い手自身に高い支払能力がなくても成立する。
市場の方向:ふるさと納税市場自体は拡大基調にあり、縮小する地域内市場に依存しない。
型化:撮影・EC・営業資料をテンプレート化することで、1社ごとの個別対応コストを下げてスケールできる。
回収サイクル:初期費用を抑えたサブスク+成功報酬型にすることで、黒字化まで平均4.1年という前提を、生産者側がまるごと背負わずに済む。
もちろん、リスクもある。型を横展開しても、商品自体に差別化力がなければ売れない。だからこそ対象を「すでに加工品実績がある事業者」に絞っている。ふるさと納税制度は自治体との調整コストや制度変更のリスクも抱える。また、複数社を同じEC基盤に乗せると、事業者ごとの個性が薄まりかねない。ブランドそのものは共通化せず、撮影・EC運用という「仕組み」だけを共通化し、商品ブランドは各社の個性を残す設計が無難だろう。
派手さはないが、「全部を、誰にでも」ではなく「一部を、型にして」提供する。この記事で見てきた4条件を、一つずつ具体的な設計に落とし込むと、こういう形になる、という一例として捉えてもらえれば十分だ。
- 「解決すべき地域課題」と「事業として黒字化を狙う対象」を、同じ計画書の中で混同していないか
- 支払能力のある顧客(担い手)は、地域の中の何割程度存在するか、数字で把握しているか
- 黒字化までの想定期間と、それを支えるための資金計画(自己資金・補助金・本業収入)が明確か
- その解決策は一軒・一社にしか効かない「個別対応」なのか、複数に横展開できる「型」になっているのか
「地域課題を解決するビジネス」という言葉は、これからも語られ続けるだろう。ただ、掛け声だけでは、6次産業化も空き家対策も、この10年間そうだったように、統計上は横ばいか微減を繰り返すだけになる。課題の手触りに感情移入する前に、まず「この課題は、誰が、いくら払って解決してくれるものなのか」を数字で確認する。それだけで、無理な戦い方をあらかじめ避けられるはずだ。
秋田に移り住んだ身として、地域の可能性そのものを信じていないわけではない。むしろ、だからこそ「解けない課題を解けると言い張って疲弊する」よりも、「解ける部分を見極めて、そこに資源を集中する」ほうが、結果的に地域のためになると考えている。感情と構造は、分けて扱ったほうがいい。
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