中小企業の「新規事業」とは何か。定義と4つの類型
「新規事業をやろう」という言葉ほど、社内で温度差が生まれる言葉はありません。経営者が思い描く新規事業と、現場が思い浮かべる新規事業は、たいてい別物です。まず「新規事業とは何か」を4つの型に分けて共通言語にすることが、すべての出発点になります。
- 中小企業の新規事業は、性格がまったく違う4つの型に分類できる。
- 型によって必要な投資額・回収期間・失敗リスクは10倍単位で変わる。
- 自社がどの型に挑もうとしているかを最初に決めないまま始めると、投資判断そのものが狂う。
「新規事業」は一つの言葉ではない
経済産業省・中小企業庁が公募する新事業進出補助金の要件では、新規事業は「既存事業と異なる事業への前向きな挑戦」と定義されています。ただしこの定義は幅が広すぎて、現場の意思決定には使えません。実務で使えるのは、「顧客基盤の重なり」と「技術・ノウハウの重なり」という2つの軸で4つに分けた型です。
| 型 | 顧客基盤 | 技術・ノウハウ | 典型的な初期投資 | 結果が出るまでの期間 |
|---|---|---|---|---|
| ①既存深耕型 | 重なる(同じ顧客) | 重なる(同じ技術) | 30万円〜300万円 | 3〜6ヶ月 |
| ②隣接展開型 | 一部重なる | 重なる(応用) | 300万円〜1,500万円 | 6〜12ヶ月 |
| ③異業種参入型 | 重ならない | 重ならない | 500万円〜3,000万円 | 12〜24ヶ月 |
| ④社内ベンチャー型 | 重ならない | 一部応用 | 200万円〜2,000万円 | 18〜36ヶ月 |
並べて見ると分かる通り、①と③では投資額もリスクも桁が違います。「新規事業をやる」とだけ決めて動き出す会社の多くは、この型の違いを詰めないまま予算とスケジュールを立ててしまい、あとで「思っていたより金がかかる」「思っていたより時間がかかる」と揉めます。
①既存深耕型:今の顧客に、今の技術で新しいものを売る
既存顧客に対して、既存の技術・設備の延長線上にある新しい商品やサービスを追加する型です。もっともリスクが低く、もっとも見落とされがちな型でもあります。
例:名刺印刷を主力とする印刷会社が、既存の法人顧客向けにノベルティ雑貨のオンライン販売を追加した場合。印刷機と紙の仕入れルートをそのまま使えるため、初期投資は約80万円(ECサイト構築とサンプル在庫のみ)、開始4ヶ月目で月商18万円に到達。
②隣接展開型:技術は活かして、市場を広げる
保有する技術・設備をそのまま使いながら、これまで取引のなかった業界・顧客層に展開する型です。技術的な地続き感があるため、社内の抵抗も比較的少なく済みます。
例:山口製作所(金属加工業・従業員34名)は、自社の金属加工技術を使って製造していた設備部品の知見を活かし、取引先工場向けの設備保守サービスを新設。初期投資620万円(保守要員2名の教育+点検機材)、開始6ヶ月目で月商210万円、しかも売上の40%は既存の金属加工顧客からの直接紹介だった。
③異業種参入型:顧客も技術も、ほぼゼロから
これまでの顧客基盤・技術のどちらとも重ならない、まったく違う業種に参入する型です。もっとも夢が語りやすく、もっとも失敗率が高い型でもあります。詳しい分岐点はM1-4で扱います。
例:丸岡鉄工所(金属加工業・従業員28名・年商3億円)は、金属加工の技術を転用してチタン製アウトドア食器のD2C-EC事業に参入。最初の挑戦は10ヶ月で損失280万円を出して事実上停止したが、決裁の仕組みと撤退基準を作り直して再挑戦し、6ヶ月目で月商52万円・営業利益率12%まで立て直した(詳細はM1-2・M1-4)。
④社内ベンチャー型:新しい市場に、新しいチームで挑む
既存事業からは独立した専任チームを社内に作り、新しい市場・新しい事業モデルに挑む型です。中小企業新事業進出補助金など公的補助(補助率1/2、従業員規模に応じて上限750万円〜9,000万円程度)の対象になりやすい型でもありますが、専任チームの人件費を最初から見込む必要があります。
例:建設資材卸業のB社は、営業担当者からの「空き家の点検依頼が増えている」という声を拾い、3名の専任チームを新設して空き家点検代行サービスを法人化。初年度の投資は約950万円(人件費が7割)で、単年度黒字化は見送り、2年目からの黒字化を目標に設計した。
4つの型を混同すると何が起きるか
「新規事業として社内ベンチャー的に大きく育てたい」と言いながら、実際には①既存深耕型の予算(100万円程度)と6ヶ月という短い期限しか用意しない。型と資源配分が矛盾しているため、途中で「思っていたのと違う」と誰かが言い出し、プロジェクトが宙に浮く。
企画段階で「これは④の型なので、投資回収は2年目以降を見込む」と明文化し、決裁者・現場・経理の三者が同じ前提で予算を承認する。型が最初から共有されていれば、途中経過が計画通りでなくても「まだ想定内」という判断ができる。
自社タイプ診断シート
これから始めようとしている(あるいは既に走らせている)新規事業が、4つのうちどの型に近いかを、この場でチェックしてみてください。明日、社内の会議に持っていけるレベルの粒度にしてあります。
このシートに書いた「型」を、稟議書や企画書の1行目に明記してください。型が明記されているだけで、決裁者が抱く期待値のズレは大きく減ります。
Q&A
一緒に整理します。
強みの棚卸しから投資額の目安づけまで、初回相談は無料です。まずは今考えている新規事業を、型に当てはめるところから始めましょう。
無料で相談する