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与信管理の基本。新規取引先と契約前にやること

fundo編集部 ·
起業の基礎

初めての大口契約、それも「これは実績になる」と思える相手からの話が来ると、確認事はすべて後回しにして飛びつきたくなります。ただ、起業したてで体力のないタイミングほど、一件の貸し倒れが致命傷になりやすいのも事実です。前回、中小企業一般の与信管理の基本を整理しました。今回は「起業家の場合、現実的にどこまでやればいいのか」を線引きします。

この記事の要点
  • 起業家は中小企業以上に、1件の貸し倒れの打撃が大きい(資金体力が薄いため)
  • フルの信用調査(1.5万〜5万円)は基本不要。まずは無料〜数百円の一次確認まで
  • 判断の軸は「その取引額が、自分の運転資金の何か月分に相当するか」
  • 「実績が欲しい」気持ちと「取引先として信用できるか」は、分けて判断する
  • 契約書・支払い条件の文書化だけは、どんなに簡易でも省略しない

なぜ起業家は、中小企業以上に慎重になるべきか

前回の記事で触れた通り、与信管理の基本的な考え方自体は中小企業も起業家も変わりません。【内部リンク:与信管理の基本|新規取引先と契約前にやること】ただし、起業家には固有の事情が3つあります。

  • 資金体力の違い:起業したての会社は、そもそも運転資金の絶対額が薄い。中小企業なら耐えられる規模の貸し倒れでも、起業家にとっては即資金ショートに直結することがあります
  • 実績への渇望:最初の大口案件や、名の知れた企業からの発注は「これで実績になる」という気持ちが先に立ちやすく、確認の判断が甘くなります
  • 交渉力の非対称:起業家側は「選ばれる立場」であることが多く、相手に強い支払い条件を求めにくい空気があります

この3つが重なると、「一番確認すべきタイミングで、一番確認しにくい心理状態になる」という構造ができあがります。だからこそ、判断を感情に任せず、あらかじめ線引きを決めておく価値があります。

起業家が現実的にやるべき範囲

結論から言うと、起業家の通常の取引規模であれば、前回紹介した3段階のうちステップ1(登記簿・所在地などの一次確認)までで十分なケースがほとんどです。数万円かかる信用調査会社の利用は、取引額が一定を超える場合に限って検討すれば足ります。

POINT

「相手が信用できそうか」という感覚ではなく、「その取引額が、自分の毎月の運転資金(固定費+生活費)の何か月分に相当するか」を判断の軸にする。感覚で判断すると、実績への期待がバイアスになります。

取引額(対・月間運転資金)現実的な対応
運転資金の1か月分未満登記簿・所在地のネット確認程度で進めてよい水準
運転資金の1〜3か月分程度一次確認は必須。加えて、初回は前払いや着手金での分割を提案する
運転資金の3か月分を超える信用調査会社の利用も検討。少なくとも与信限度額と支払いスケジュールを契約書で明文化する

「実績が欲しい」気持ちと、与信管理は別の話

沢田さんのケース(独立系エンジニア・受託開発)

沢田さんは会社員から独立し、個人でWebシステムの受託開発を始めて半年。実績はまだ小規模な案件が数件のみでした。ある日、中堅の製造業から「基幹システムの一部を刷新したい」という相談が来ます。金額は500万円規模、当時の沢田さんの月間の生活費・固定費を考えると、運転資金の数か月分に相当する大きな案件でした。

「この規模の案件を受けられたという実績が欲しい」という気持ちが先に立ち、契約書は簡単な発注メールのみ、支払い条件も「納品後、请求書ベースで」という曖昧な取り決めのまま開発に着手しました。開発は完了し納品もしましたが、検収基準を事前に文書化していなかったため「一部機能が想定と違う」という理由で支払いが数か月保留に。最終的に支払いは受けられたものの、その間の生活費の工面にかなり苦労することになりました。

沢田さんが振り返って言うのは「相手を疑っていたわけじゃない。ただ、実績が欲しい気持ちと、取引条件をきちんと詰める作業は、別々にやるべきだった」ということでした。

契約書・スケジュールだけは省略しない

起業家が特に省略しがちなのが、この部分です。信用調査までは不要でも、以下は取引額の大小にかかわらず、最低限やっておくべきです。

  • 見積書・発注書・支払い条件を、メールでもいいので必ず文書として残す
  • 検収基準(何をもって「完了」とするか)を、着手前に具体的に合意しておく
  • 支払いサイトを「◯月◯日までに」と日付ベースで明記する(「納品後」だけでは起点が曖昧になります)
  • 金額が大きい案件では、着手金・中間金での分割払いを提案する
NG:「実績になるから」と、契約条件を詰めないまま見切り発車で着手してしまう
OK:「着手金として3割、納品時に残りをお願いできますか」と、最初の提案時点で条件を出す
起業家向け・簡易チェックリスト
  • 取引額は、自分の運転資金の何か月分に相当するか計算したか
  • 登記簿・所在地の実在確認(無料〜数百円の範囲)はしたか
  • 検収基準を、着手前に文書で合意したか
  • 支払いサイトを日付ベースで明記したか
  • 金額が大きい場合、着手金・分割払いを提案したか

よくある質問

Q1相手が上場企業やブランド力のある会社でも、確認は必要ですか?

必要です。特に注意したいのは、発注元が大企業でも、実際の窓口が子会社・支店・特定の事業部単独の判断だったりするケースです。会社としての支払い能力と、その取引を実際に決裁している部署の支払いサイトの長さは、別の話として確認しておいた方が安全です。

Q2着手金を要求すると、心証が悪くなりませんか?

健全な取引慣行として一般的なものなので、過度に心配する必要はありません。むしろ、金額や条件をきちんと提示できる相手だと受け取られることも多いです。伝え方としては「弊社の標準的な取引条件として」といった形で、個別の不信感ではなく一般的なルールとして提示すると角が立ちにくくなります。

Q3個人事業主のうちから、ここまでやるべきですか?

むしろ個人事業主の方が重要です。法人と違い、事業用の資金と生活費が直結しているため、1件の未払いが生活そのものに影響します。取引規模が小さくても、文書化と支払いサイトの明記だけは習慣にしておくことをおすすめします。

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※本記事に登場する「沢田さん(独立系エンジニア)」は、解説のためにfundoが作成した架空の事例です。実在の企業・個人とは関係ありません。
※契約書の条項・取引条件に関する記載は一般的な実務の考え方の紹介であり、法的助言ではありません。個別の契約書作成にあたっては弁護士等の専門家にご確認ください。