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資本金はいくらにすべきか。1円会社が損をする3つの場面

fundo編集部 ·
資金調達

資本金はいくらにすべきか。1円会社が損をする3つの場面

「資本金1円でも会社は作れる」は事実です。ただし、作れることと、得することは別の話です。この記事では、極端に低い資本金で登記した会社が実務でどこで損をするのかを3つの場面に絞って説明し、あわせて資本金の金額帯ごとに対外的にどう見られるかも整理します。

この記事のPOINT
  • 2006年の会社法改正で最低資本金制度は撤廃され、理論上は1円で株式会社を設立できる
  • ただし資本金は登記簿謄本に載る公開情報。低すぎると外から見た会社の体力が疑われる
  • 損をするのは主に3つの場面:①融資審査②取引先の与信審査③運転資金の枯渇
  • 目安は「業種の許認可要件」「当面の運転資金」「1000万円という税務上の境界線」の3点から逆算する

そもそも資本金とは何か

資本金は、創業時に代表者が会社に入れる元手のお金です。個人の財布から出た瞬間に、それは「会社のお金」に変わります。会社を作るときに銀行口座に振り込み、その金額を登記簿謄本に記載する。それだけの話です。

重要なのは、資本金の金額が誰でも取れる公開情報だという点です。登記簿謄本(履歴事項全部証明書)は法務局で誰でも取得できます。取引先も、金融機関も、あなたの会社の資本金をいつでも確認できる。ここが「資本金は自分の懐事情の話」で済まない理由です。対外的には、資本金は事実上の「体力表示」として機能します。

背景

2005年までは株式会社の設立に最低1,000万円、有限会社に最低300万円の資本金が法律で義務付けられていました。2006年の会社法施行でこの最低資本金制度が撤廃され、理論上は資本金1円でも株式会社を作れるようになりました。「1円起業」という言葉が広まったのはこの改正がきっかけです。ただし、これは設立のハードルが下がった1円が有利になった

1円会社が損をする3つの場面

フリーランスのデザイナーとして5年活動していた宮下さんの例で見ていきます。貯蓄240万円を持ち、法人化を機に「ネットで資本金1円でも作れると見た」という理由だけで、資本金1円で株式会社を登記しました。

① 金融機関の融資審査で「見せ金」を疑われる

CASE:宮下さんの場合

法人化した翌月、事業拡大のために日本政策金融公庫の融資相談に行きました。自己資金は通帳上240万円あるのに、登記簿上の資本金はたったの1円。担当者から真っ先に聞かれたのは「この240万円はどこにあるお金ですか。資本金に計上していないのはなぜですか」でした。

説明はできたものの、通帳の入出金履歴を数か月分すべて提出することになり、面談は当初の想定より1回分多く必要になりました。最終的には融資は通りましたが、希望額より借入枠は圧縮されました。

創業融資の審査では、申込者が事業に対してどれだけ本気で資金を用意したかを見る「自己資金要件」が重視されます。資本金は、その自己資金のうちどれだけを実際に会社に入れたかを示す指標のひとつとして扱われます。手元に自己資金があるのに資本金が極端に低いと、「その資金は本当に自分のものか」「見せ金(一時的に借りて口座残高だけ整えた資金)ではないか」という確認が入りやすくなります。疑われて終わりではなく、疑いを晴らすための追加のやり取りに時間を取られる、というのが実務上のコストです。

② 取引先の与信審査で新規契約を断られる

CASE:宮下さんの場合(続き)

その後、大手広告代理店の外注パートナー登録を申し込みました。制作実績は問題なく評価されましたが、与信審査の段階で「資本金1円の会社とは新規のお取引を開始できない」という社内基準に該当し、契約前に増資(100万円)を求められました。結局、増資の手続きに2週間かかり、案件開始が後ろ倒しになりました。

資本金の水準大手企業の与信審査での扱われ方(傾向)
1円〜9万円与信枠なし・取引不可の基準に該当することがある
10万円〜99万円個別審査。前払い条件・掛け取引の上限額を厳しく設定されやすい
100万円以上標準的な与信審査の土俵に乗りやすい

一定規模以上の企業は、新規取引先の登記簿謄本を取得して資本金を確認し、支払能力・倒産リスクの初期スクリーニングに使う運用を持っています。これは会社の担当者個人の判断ではなく、社内規程として機械的に線引きされていることが多いため、実績や人柄で覆すのが難しい種類の壁です。

③ 運転資金がすぐ尽きて、役員借入金が膨らむ

NG資本金1円のまま法人口座を開設。初月の家賃・デザインソフトの年間契約・法人印鑑作成費用の支払いに、会社口座に現金がなく対応できない。
OK資本金を当面の固定費2〜3か月分(宮下さんの場合であれば家賃・サブスク費用等で目安50万円程度)は用意し、会社の口座から支払える状態にしておく。

資本金は「登記のための儀式的な数字」ではなく、法人としての最初の運転資金そのものです。1円しか入っていない口座では、経費の支払いも、売上が入金されるまでのタイムラグも吸収できません。結果として宮下さんが実際にたどったのは、代表者個人の口座から会社の経費を立て替える運用でした。

この立て替えは会計上「役員借入金」として会社の負債に計上されます。半年後、宮下さんの役員借入金は80万円まで膨らんでいました。次の追加融資の相談で、金融機関の担当者から指摘されたのは「代表者からの借入が多い会社は、自己資金だけで事業を回せていない証拠と見られやすい」という点でした。決算書の見た目としても、役員借入金が膨らんだ状態は良い印象を持たれません。

許認可業種は要注意

業種によっては法律上の最低資本金・基準資産額の要件があります。建設業の一般建設業許可は自己資本500万円以上が目安、労働者派遣事業は基準資産額2,000万円以上など、業種ごとに個別の基準が存在します。該当する業種で開業する場合は、そもそも「資本金1円」という選択肢自体が使えないケースがある点を先に確認してください。

資本金別の「見られ方」早見表

損をする場面を避けるための目安として、資本金の金額帯ごとの対外的な印象と実務ポイントを整理します。あくまで一般的な傾向であり、業種・取引先・金融機関によって基準は異なります。

資本金対外的な印象・実務ポイント
1円〜9万円個人事業主とほぼ同じに見られる。融資・与信の両方で本気度と準備不足を疑われやすい
10万円〜99万円ひとり法人・フリーランスの法人成りに多い水準。業種によっては十分だが、対外的な安心材料としては弱い
100万円「必要な範囲は用意した」という印象を与えやすい、実務上の定番ライン
300万円〜500万円一般的な中小企業の設立時の目安。許認可業種の基準にも近づきやすい水準
1000万円未満消費税の免税事業者になれる可能性がある境界(条件あり、後述)
1000万円以上対外的信用力は上がる一方、消費税は原則課税事業者に。均等割の税額区分が上がる自治体もある
1000万円ラインの補足

資本金1000万円未満の新設法人は、原則として設立1期目・2期目は消費税の納税義務が免除されます(基準期間がないため)。ただし、設立当初の半年間の課税売上高や給与支払額が1000万円を超える場合は2期目から課税事業者になるなど、例外条件があります。またインボイス制度で適格請求書発行事業者として登録すると、資本金の額に関わらず課税事業者になります。免税を意識して資本金を決める場合は、この点を必ず税理士に確認してください。本記事は一般的な傾向の説明であり、個別の税務判断を保証するものではありません。

では、いくらにすべきか

「資本金はいくら入れれば安全か」という問いに、業種を無視した唯一の正解はありません。ただし、判断の順番は決まっています。

  • まず、自分の業種に法律上の最低資本金・基準資産額の要件がないか確認する(建設業・労働者派遣業・旅行業など)
  • 次に、設立後2〜3か月分の固定費(家賃・人件費・サブスク費用など)を運転資金として見積もる
  • 融資を予定しているなら、自己資金のうち一部を資本金として計上する(全額である必要はないが、ゼロや1円は避ける)
  • 主要な取引先が大手企業の場合、その業界の与信慣行(最低資本金の目安)を事前に確認する
  • 消費税の免税を重視する場合のみ、1000万円未満に収めることを検討する
Q1資本金は後から増やせますか

増資という手続きで可能です。ただし登記費用(登録免許税など)がかかり、司法書士に依頼すれば別途報酬も発生します。最初から必要な水準を見積もっておく方が、トータルのコストは安く済みます。

Q2資本金を減らす(減資)こともできますか

手続き上は可能ですが、官報公告や債権者保護手続きが必要で時間がかかります。また「資本金を減らした会社」という事実自体が対外的にネガティブに受け取られることもあるため、安易な選択肢ではありません。

Q3資本金を多く入れすぎるとデメリットはありますか

あります。前述の消費税の免税ラインを超えると納税義務が生じ、自治体によっては法人住民税の均等割の税額区分も上がります。資本金は「多ければ多いほど良い」わけではなく、必要な水準を見積もったうえで決めるべき数字です。

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※本記事に登場する「宮下さん」は、解説のためにfundoが作成した架空の事例であり、実在の人物・企業とは関係ありません。
※税務上の取り扱い(消費税の免税判定・均等割の区分等)は個別の状況により異なります。具体的な判断は税理士にご確認ください。法務上の手続き(増資・減資等)については司法書士・弁護士にご相談ください。