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M&Aの決算書を添削する|BS・PLの数字をそのまま信じた人から損をする

fundo編集部 ·
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M&Aの決算書を添削する|BS・PLの数字をそのまま信じた人から損をする

会社を買うとき、売り手から決算書を受け取ります。そこに書いてある「営業利益820万円」「純資産4,800万円」という数字を、そのまま信じて値段の話を始める人が本当に多い。断言しますが、中小企業の決算書は、そのままでは買収判断に使えません。この記事では、まず決算書の用語を「町の弁当屋」のたとえでひと通りおさえてから、架空の3社の決算書を実際に「添削」して、数字をどう引き直すのかをお見せします。用語が分かる方は、前半を飛ばして添削①からどうぞ。

この記事の結論
  • PLは「自分が買った後も同じ数字になるか」で引き直す。役員報酬・家賃・親族人件費が3大修正ポイント
  • BSは「今すぐ現金化したらいくらか」「隠れた支払い義務はないか」で実質純資産に引き直す
  • 直近1期だけ良い数字は信じない。3期比較と現預金の動きを突き合わせれば、売却前の「お化粧」は見抜ける

まず、決算書のことばを「町の弁当屋」で覚える

決算書は主に2枚の紙でできています。PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)です。難しく考える必要はありません。

  • PL=1年間の家計簿。「この1年、いくら入って、いくら出て、いくら残ったか」
  • BS=ある日の財産目録。「決算日その日に、何を持っていて、いくら借りているか」の写真

これを、町の小さな弁当屋を思い浮かべながら見ていきます。

PLに出てくることば(1年間の家計簿)

用語ひとことで言うと弁当屋でいうと
売上高 1年間にお客さんからもらった代金の合計 弁当を売って受け取ったお金ぜんぶ
売上原価
(仕入れ)
売った商品を作るのに直接かかったお金 米・肉・野菜・容器の代金。弁当1個500円で材料費が200円なら、原価は200円
売上総利益
(粗利)
売上から仕入れを引いた儲けのタネ 500円−200円=弁当1個あたり300円。ここから店の経費を払っていく
販管費 商売を続けるために毎月出ていくお金 店の家賃、パートさんの給料、水道光熱費、チラシ代、社長の給料(役員報酬)
営業利益 本業で最後に残った儲け 粗利の山から販管費を全部払って、レジに残ったお金

BSに出てくることば(ある日の財産目録)

用語ひとことで言うと弁当屋でいうと
資産=持っているもの
現預金 今すぐ使えるお金 レジの中と銀行口座のお金
売掛金 売ったのに、まだもらっていないお金(ツケ) 近所の会社に配達している昼弁当の「月末まとめ払い」。売上には立っているが、現金はまだ手元にない
棚卸資産
(在庫)
仕入れたけど、まだ売れていないもの 冷蔵庫の食材、倉庫に積んである容器や割り箸。売れて初めてお金になる
土地・建物
(物件)
商売に使っている場所や設備 店舗と厨房。自前の物件ならBSに載り、借りている物件ならBSには載らず、家賃がPLに出る
負債=いずれ払うもの
買掛金 仕入れたのに、まだ払っていないお金(こちらのツケ) 市場や食材業者への「月末払い」。売掛金の逆
借入金 銀行などから借りているお金 厨房設備を入れたときの銀行ローンの残り
そして、いちばん大事なことば
純資産 資産から負債を引いた、正味の取り分 店をたたんで、持ち物を全部売って、借金とツケを全部払ったあと、最後に手元に残るお金(のはずのもの)

資産 − 負債 = 純資産
(持っているもの − いずれ払うもの = 会社の正味の値打ち)

買い手が最初に覚えるべき「3つの落とし穴」

ここまでの用語には、それぞれ落とし穴があります。あとの添削で全部出てくるので、先に予告しておきます。

用語ごとの落とし穴(あとで全部回収します)
  • 売掛金は「必ず入るお金」ではない。配達先の会社が潰れたら、そのツケは紙切れです → 添削②
  • 在庫は「売れれば」お金。冷蔵庫の奥で古くなった食材は、帳簿上いくらでも、実際の価値はゼロです → 添削②
  • 物件は「持ちか、借りか」で決算書の顔が変わる。社長個人の持ち物件を家賃タダで使っている会社は、利益が実力より大きく見えます → 添削①

用語の下ごしらえはここまで。ここから本題です。

なぜ決算書を「そのまま」読んではいけないのか

理由は単純で、中小企業の決算書は「会社の実力を正しく示すため」ではなく「税務申告のため」に作られているからです。

オーナー社長の会社では、社長の意思ひとつで利益はかなりの幅で動かせます。役員報酬を厚く取れば利益は消えるし、薄くすれば利益は膨らむ。社長個人が所有する建物を会社に貸していれば、家賃の設定次第で経費は変わる。どれも合法です。ただし、その数字は「その社長がオーナーである間だけ」成立する数字であって、あなたが買った後の会社の姿ではありません。

さらに、売却を考え始めた会社は、決算書を意図的に良く見せてくることがあります。これも見抜く側の仕事です。

では、実際に3社の決算書を添削していきます。数字はすべて架空ですが、修正のパターンは実務でそのまま使えるものです。

添削①【PL編】営業利益820万円の印刷会社は、本当に「儲かっている」か

持ち込まれた決算書

従業員8名の印刷会社「協和プリント」。仲介会社の資料には「安定黒字・利益率8%超の優良企業」とあります。

PL(直近期・抜粋)金額
売上高9,800万円
売上総利益3,900万円
販管費3,080万円
営業利益820万円(率8.4%)

よくある読み方(NG)

「利益率8%超は製造系では上出来。営業利益の5年分=4,100万円くらいまでなら出しても回収できる計算だ」

添削:販管費の中身を3か所直す

勘定科目内訳明細書まで見ると、この820万円は次の3つの「オーナー特有の事情」でできています。弁当屋でいえば、社長が自分の給料をほとんど取らず、店舗は社長個人の持ち物で家賃タダ、しかも奥さんがタダ働きしている店です。その店の「利益」を、あなたが引き継げるでしょうか。

修正項目決算書の状態修正額
役員報酬 社長の報酬が月20万円(年240万円)。後継の経営者を雇うなら年600万円は必要 ▲360万円
地代家賃 工場建物は社長個人の所有で、会社は家賃を1円も払っていない。買収後に賃借するなら相場は月25万円 ▲300万円
人件費 経理は社長の配偶者が無給で担当。外部を雇えば年120万円相当 ▲120万円
実質営業利益(正常収益力) 40万円

添削後の読み方(OK)

「あなたが買った後も発生し続けるコストで引き直すと、実質の稼ぐ力は年40万円。この会社に値段が付くとしたら、根拠は利益ではなく、設備・顧客基盤・人材の側にある。『利益の何年分』という値付けの土俵にそもそも乗らない」

※逆のパターンもあります。社長が役員報酬を年2,000万円取っていて利益ゼロに見える会社は、報酬を市場水準に引き直すと利益が「上方修正」されます。修正は減らす方向だけとは限りません。

添削②【BS編】純資産4,800万円の金属加工会社は、本当に「4,800万円の会社」か

持ち込まれた決算書

創業45年の金属加工会社「大谷製作所」。希望譲渡価格は「純資産と同額の4,800万円」です。

BS(直近期・抜粋)金額
資産の部 計 9,200万円
現預金1,200万円
売掛金1,800万円
棚卸資産(在庫)2,200万円
土地・建物3,600万円
その他400万円
負債の部 計 4,400万円
借入金3,200万円
買掛金・その他1,200万円
純資産4,800万円

よくある読み方(NG)

「純資産4,800万円の会社を4,800万円で買うなら、資産の裏付けがあるからほぼノーリスク。むしろ値切れれば割安だ」

添削:資産の「実在性」と「時価」、負債の「網羅性」を直す

BSの添削は、資産は疑ってかかり、負債は「書かれていないもの」を探すのが基本姿勢です。前半で予告した落とし穴が、ここで全部出てきます。売掛金は「潰れた配達先のツケ」、在庫は「冷蔵庫の奥で古くなった食材」、物件は「30年前に買ったときの値段のまま帳簿に載っている店の土地」。どれも帳簿の数字と実際の価値がズレています。

修正項目調べて分かったこと修正額
売掛金 1,800万円のうち400万円は2年以上滞留。うち先方が事実上倒産している分も。回収不能とみなす ▲400万円
棚卸資産 在庫2,200万円のうち900万円は5年以上動いていない特注品の残材。売れる見込みなし ▲900万円
土地 簿価3,600万円は30年前の取得価格。現在の実勢価格は2,400万円程度(含み損) ▲1,200万円
退職給付 退職金規程があるのに引当金が計上されていない。従業員の勤続年数から要支給額を試算 ▲800万円
実質純資産(時価修正後) 1,500万円

添削後の読み方(OK)

「帳簿上の4,800万円は、時価に引き直すと実質1,500万円。しかもこれは決算書に載っているものを直しただけで、未払残業代やリース債務など簿外の負債がまだ潜んでいる可能性がある。4,800万円という希望価格は交渉の出発点ですらない」

相談の現場で一番ヒヤッとするのが、まさにこの「純資産=会社の値段」で話が進んでいるケースです。売り手も悪気があるわけではなく、本人も自社の実質純資産を知らないことが珍しくありません。30年前に買った土地の簿価も、動かない在庫も、決算書の上では毎年そのまま繰り越されていくからです。だからこそ、引き直すのは買い手の仕事になります。

添削③【PL×お金の流れ編】直近期だけ利益が跳ねた食品卸を、どう疑うか

持ち込まれた決算書(3期分)

食品卸「マルシン食品」。仲介資料の見出しは「増収増益・成長企業」です。

3期前2期前直近期
売上高4.2億円4.3億円4.8億円
営業利益600万円650万円1,400万円

よくある読み方(NG)

「利益が2倍超に伸びている成長トレンド。直近利益1,400万円をベースに値付けして問題ない」

添削:跳ねた期は「なぜ跳ねたか」を分解し、現金の動きと突き合わせる

売却を控えた会社の直近期は、いちばん化粧が濃い期だと思って読んでください。弁当屋でいえば、店を売る直前の1年だけ「配達先に頼み込んで3月に弁当を大量納品し(売上のかさ上げ)、壊れかけの厨房機器の修理を我慢する(費用の先送り)」ようなものです。この会社の場合、分解すると3つの細工が見つかりました。

見つかったこと意味するもの
1 売上増4,000万円の大半が、期末月に特定1社へ集中している。売掛金も前期比+1,800万円 いわゆる「押し込み売上」の疑い。翌期に返品・反動減が来る売上は、実力ではない
2 修繕費が例年300万円前後 → 直近期は60万円。配送トラックと冷蔵設備の更新を先送り 利益のかさ上げ。先送りされた修繕は、買収後にあなたが払うことになる
3 営業利益1,400万円なのに、現預金は前期比▲500万円減っている 利益と現金の逆行は最大級の警報。PLの利益が現金として入ってきていない

添削後の読み方(OK)

「この会社の巡航速度は年600〜650万円。直近期の1,400万円は売却用の化粧された数字であり、値付けのベースには使えない。加えて、先送りされた設備更新のコストを買収価格から差し引いて考える必要がある」

※直近期が良い=即アウト、ではありません。値上げや大口取引の獲得など、本物の理由で伸びる会社もあります。要は「なぜ跳ねたのか」を売り手が具体的に説明でき、それが翌期以降も続く構造かどうかです。説明が曖昧なら、化粧を疑ってください。

3つの添削に共通するルール

事例は3つですが、やったことは毎回同じです。

M&Aで決算書を読むときの共通ルール
  • PLは「買った後も同じ数字か」で引き直す。役員報酬・オーナーへの家賃・親族人件費は必ず市場水準に直す(正常収益力)
  • BSは「今すぐ現金化したらいくらか」で引き直す。売掛金の滞留、動かない在庫、土地の含み損益、未計上の退職給付を直す(実質純資産)
  • 直近1期は信じない。最低3期、できれば5期並べて、跳ねた数字・消えた費用の理由を1つずつ確認する
  • 利益と現金の動きを必ず突き合わせる。利益が出ているのに現預金が減っている会社は、理由が分かるまで先に進まない
  • 引き直した数字を交渉に使う。修正結果は価格交渉の材料であり、価格で折り合えないリスクは表明保証や価格調整条項でカバーする

決算書だけで確認できるのはここまでで、最終的な買収判断の前には財務・法務のデューデリジェンス(DD)が必要です。ただ、この添削を自分でできる買い手は、DDに入る前の段階で「買ってはいけない案件」の8割を落とせます。仲介会社の資料の見出しではなく、数字そのものを読む。それだけで、テーブルに着くべき案件が変わります。

よくある質問

Q1決算書は何期分もらえばいいですか?

最低3期、できれば5期です。あわせて勘定科目内訳明細書と税務申告書一式まで求めてください。添削①②で見たような修正は、決算書の表紙だけでは絶対にできません。内訳明細を見て初めて、役員報酬の額も売掛金の相手先も分かります。

Q2売り手が内訳明細を出し渋る場合は?

秘密保持契約(NDA)を結んだ後でも内訳明細や申告書を出さない相手は、それ自体を撤退基準にして構いません。見せられない数字がある会社を、見えないまま買う理由はありません。

Q3自分で添削できる自信がありません

最終判断の前の財務DDは、小規模案件でも専門家に依頼してください。数十万円かかりますが、この記事の3事例のような「数千万円単位の見誤り」を防ぐ保険としては安い出費です。ただし丸投げではなく、この記事のルールを頭に入れて専門家の報告書を自分で読める状態にしておくことが、買い手としての最低ラインです。

Q4添削した結果、売り手の希望価格と大きくズレたら?

選択肢は3つです。①修正根拠を示して価格交渉する、②価格は譲る代わりに表明保証(簿外債務が出たら売り手負担)を厚くする、③株式譲渡をやめて事業譲渡に切り替え、欲しい資産と契約だけを引き取る。数字の添削は、破談のためではなく、この3つの交渉カードを持つためにやるものです。


NEXT STEP
その決算書、買う前に一緒に添削しませんか

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「この数字、どう読めばいいのか」の段階からで大丈夫です。

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本記事の制度・実務情報は2026年7月時点のものです。会計・税務の個別判断は、必ず税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

※本記事に登場する「協和プリント」「大谷製作所」「マルシン食品」は、解説のためにfundoが作成した架空の事例であり、実在の企業とは一切関係ありません。

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