0から起業するとき、やること、お金、頼るべき人
0から起業するとき、何を、どの順番でやればいいのか。この記事では、思いついた日から黒字になる日までを4つのフェーズに分けて、やること・かかるお金・頼るべき人を全部並べます。先に結論を1つだけ。仕事は辞めないでください。理由は本文で説明しますが、この1点を守るだけで、起業の失敗確率は目に見えて下がります。
- 黒字化までの4フェーズ(設計→検証→開業→黒字化)と、それぞれの期間・費用
- フェーズごとに「頼るべき人」と、その費用(無料の相手がかなり多い)
- 会社を辞めていい数値基準(感覚ではなく数字で判断する)
- 会社員が副業から始めて14ヶ月で黒字化した通しの実例
大前提:仕事は辞めない
起業本にはよく「退路を断て」と書いてあります。実務では逆です。退路を断った人から順に、判断を誤ります。
理由は3つあります。
① 生活費が事業を食い潰す。会社を辞めた瞬間から、毎月の生活費(家族持ちなら25〜35万円)が貯金から出ていきます。売上ゼロの期間が6ヶ月続けば、それだけで200万円前後が「事業と関係ないところ」に消える。同じ200万円を事業に使えたら、結果はまったく違います。
② 焦りが値決めを壊す。貯金が減っていく状態では、「安くてもいいから受注したい」という判断に必ず傾きます。最初に安売りした価格は、あとから上げられません。給料という安全網がある人だけが、強気の値決めと「断る」という選択を維持できます。
③ 融資審査でも在職実績は資産になる。創業融資の面談では「この人は計画どおりに事業を運べるか」を見られます。在職中に副業で売上実績を作ってから申し込む人と、退職してゼロから申し込む人では、前者の方が圧倒的に説明しやすい。副業の売上入金が並んだ通帳は、どんな熱意よりも雄弁です。
全体ロードマップ:黒字化までの4フェーズ
先に全体像を見せます。個人差はありますが、副業スタートの場合、思いついてから黒字化までおおむね12〜24ヶ月が現実的なラインです。
| フェーズ | 期間の目安 | やること | かかるお金 | 身分 |
|---|---|---|---|---|
| Phase 0 設計 | 1〜3ヶ月 | 事業モデルを決める/自己資金を貯め始める | 0〜3万円 | 会社員 |
| Phase 1 検証 | 3〜9ヶ月 | 副業として小さく売る/価格と需要を確かめる | 5〜30万円 | 会社員+副業 |
| Phase 2 開業 | 1〜3ヶ月 | 開業届・融資・本格投資 | 0円〜(融資で調達) | 会社員+個人事業主 |
| Phase 3 黒字化 | 3〜12ヶ月 | 損益分岐を超える/辞める基準を満たしたら独立 | 運転資金から充当 | 基準を満たしたら専業 |
ポイントは、Phase 2の終わりまで会社員のまま進められるという点です。「起業=退職」ではありません。順に見ていきます。
Phase 0:事業モデルを決める(1〜3ヶ月・0〜3万円)
やることは「誰に・何を・いくらで」の3つだけ
事業モデルの設計は、突き詰めるとこの3つを決める作業です。ここが曖昧なまま先に進むと、後の全工程が無駄になります。詳しい手順は「事業モデル設計の3ステップ」にまとめてあるので、ここでは判断基準だけ。
自己資金を貯め始める(毎月・同じ日・同じ口座)
創業融資では、自己資金の「額」だけでなく「貯め方」が見られます。毎月コツコツ積み立てた通帳は、計画性の証明になります。直前に親から振り込まれた100万円は、見せ金を疑われて逆効果になることすらあります。
目安は開業資金の2〜3割。300万円の開業なら60〜90万円。月3万円なら約2年、月5万円なら約1年半です。Phase 0の初日に積立を始めてください。この記事で今日やるべきことを1つ挙げるなら、これです。
Phase 1:副業で小さく売る(3〜9ヶ月・5〜30万円)
最初の1件は「人づて」で売る
広告もSNSもホームページも、まだ要りません。最初の顧客は、あなたをすでに知っている人の周辺にいます。前職の取引先、同僚の知人、地元のつながり。「こういうことを始めたので、困っている人がいたら紹介してほしい」と、10人に直接言う。これが最初の営業のすべてです。
人づてで売れないものは、広告を打っても売れません。逆に、知り合い経由で3件売れたら、その商品には需要があります。集客チャネルの優先順位は「起業時の集客は営業・SEO・SNS・広告のどれが正解か」で詳しく書いています。
この段階で確かめること
- 需要:お金を払う人が本当にいるか(「いいね」ではなく入金で確認する)
- 価格:想定価格で買われるか。値引きしないと売れないなら、モデルを見直す
- 原価と時間:1件こなすのに何時間・いくらかかるか。ここから黒字化の算数が始まる
費用は最低限の道具・保険・名刺程度に抑えます。この段階で内装や高額な設備に金を使ってはいけません。まだ「売れるかどうか」を確かめている段階だからです。
Phase 2:開業と融資(1〜3ヶ月・自己負担ほぼ0円)
開業届は無料、法人化はまだ早い
副業の売上が安定してきたら、税務署に開業届を出します。費用は0円、記入は15分です。青色申告承認申請書も同時に出しておくと、最大65万円の控除が使えます。
法人化(合同会社で約10万円、株式会社で約25万円)は、法人でないと取引できない相手が現れてからで十分です。最初から法人にする必要はほとんどありません。
融資は「在職中の実績」を持って公庫へ
本格的な設備投資や運転資金が必要なら、日本政策金融公庫の創業融資が第一候補です。ここでPhase 0〜1の積み上げが効きます。
| 面談で見られる点 | 準備ゼロの人 | この記事の手順を踏んだ人 |
|---|---|---|
| 自己資金 | 直前にかき集めた | 毎月の積立が通帳に残っている |
| 売上の根拠 | 「頑張ります」 | 副業の入金実績がすでにある |
| 返済原資 | 事業が当たれば返せる | 給料があるので当面の生活は事業と分離 |
面談の想定問答は「公庫面談で聞かれる25の質問」、事業計画書の書き方は「創業融資に通る15枚」を参照してください。
Phase 3:黒字化の算数と「辞めていい基準」
黒字化は感覚ではなく引き算
黒字化とは、月の粗利が固定費を超えること。それだけです。たとえば固定費(家賃・リース・保険・通信費など)が月20万円、1件あたりの粗利が2万円なら、月10件で損益分岐。11件目から黒字です。
この計算を開業前にやってください。「月何件で黒字になるか」が答えられない事業は、まだ設計が終わっていません。
会社を辞めていい数値基準
「手応えがあるから」で辞めてはいけません。基準は数字で決めます。
- 副業の月間粗利が、手取り給料の70%以上を3ヶ月連続で超えている
- 生活費の6ヶ月分の預金が、事業資金とは別に確保できている
- 翌月以降の受注(予約・契約)が既に埋まり始めている=需要が単発ではない
「70%」なのは、独立後は会社の看板が外れる一方、使える時間が3〜4倍になるからです。副業の時間だけで給料の7割を稼げていれば、専業になった時点でほぼ確実に超えます。
頼るべき人たち:誰に・何を・いくらで
起業は1人でやるものだと思われがちですが、実際は無料で使える支援窓口が大量にあります。使わないのは単純に損です。
| 相手 | 頼むこと | 費用 | 使うタイミング |
|---|---|---|---|
| 商工会議所・商工会 | 創業相談、事業計画の壁打ち、地元の人脈紹介 | 無料〜年会費1〜2万円 | Phase 0〜 |
| よろず支援拠点 | 販路・集客・値決めの相談(国の機関、回数無制限) | 無料 | Phase 1〜 |
| 日本政策金融公庫 | 創業融資。事前相談も可能 | 相談無料 | Phase 2 |
| 税理士 | 記帳・確定申告・融資書類の精度向上 | 顧問月1〜3万円/申告のみ単発5〜15万円 | Phase 2〜 |
| 同業の先輩経営者 | 実際の原価・失敗談・相場観(ネットに出ない情報) | 飲み代程度 | 全フェーズ |
| 認定支援機関 | 補助金申請、制度融資のサポート | 無料〜成功報酬 | Phase 2〜 |
実例:会社員のまま始めて14ヶ月で黒字化した藤井さん
藤井さん(38歳・建材メーカー営業)は、ハウスクリーニングでの独立を考えていました。選んだ理由は「需要が証明されていて、参入費用が小さいから」。典型的なレッドオーシャンです。
1〜2ヶ月目(Phase 0):「誰に・何を・いくらで」を設計。競合の大手チェーンが不得意な法人向けの定期清掃(不動産会社の退去後クリーニング)に絞り、単価は相場より1割高い代わりに「翌日対応」を売りにすると決定。同時に月5万円の積立を開始。
3〜8ヶ月目(Phase 1):道具一式と損害賠償保険で約22万円を自己負担。営業先は、本業の取引先である工務店と、そこから紹介された不動産会社2社。土日のみの稼働で月商10万→25万円まで検証。ここで「1件あたり粗利1.4万円・作業3時間」という原価が確定。
9〜10ヶ月目(Phase 2):開業届を提出(0円)。積立45万円と副業の入金実績を持って公庫に申し込み、軽バン・機材・広告費として150万円を調達。面談では「なぜ会社を辞めていないのか」と聞かれ、「この基準を満たすまで辞めない計画です」と退職基準の数字をそのまま答えたところ、むしろ計画性を評価されました。
11〜14ヶ月目(Phase 3):取引先が4社に増え、月商80万円・粗利32万円で固定費を超えて黒字化。手取り給料の70%を3ヶ月連続で超え、翌々月の予約まで埋まったことを確認して退職。現在は平日フル稼働に切り替え、月商は140万円台です。
特別な才能も、珍しいアイデアも出てきません。順番を守っただけです。逆に言えば、この順番を守れば、誰がやっても失敗の確率は大きく下がります。
まとめ:今日から始める場合の最初の3手
- 事業用の口座を作り、自己資金の積立を今月から開始する(金額は月3万円からでいい)
- 「誰に・何を・いくらで」を紙に1行ずつ書く。書けない項目が、今の課題
- 最寄りの商工会議所か、よろず支援拠点の相談予約を入れる(無料)
よくある質問
バレる主な経路は住民税です。副業の所得で住民税が増えると、給与天引き額の変化で経理が気づくことがあります。確定申告時に住民税の納付方法で「自分で納付(普通徴収)」を選べば、副業分の住民税は自宅に納付書が届く形になり、この経路は塞げます。ただし就業規則で副業が禁止されている場合は、規則違反自体のリスクが残る点に注意してください。
まず就業規則の原文を確認してください。「全面禁止」は実は少なく、「許可制」や「競業のみ禁止」のケースが多数です。許可制なら申請すればいい。本当に全面禁止なら、Phase 1を「売らない検証」に置き換えます。見込み客へのヒアリング、予約リストの獲得、試作品の反応確認までは無償でもできる。収入が発生する直前まで在職中に進めておき、開業と同時に一気に立ち上げる形です。
受けられます。公庫の創業融資に「専業であること」という条件はありません。むしろ本文で書いたとおり、給料という返済原資があり、副業の売上実績まである申込者は、審査上プラスに働くことが多い。ただし、事業計画書には「いつ・どの基準で専業に移行するか」を明記しておくと説明がスムーズです。自己資金まわりの考え方は「自己資金ゼロで創業融資は通るか」も参考にしてください。
fundoは、事業モデルの設計から創業融資、黒字化までを伴走する支援サービスです。
「自分の場合はどうなのか」を、無料相談で具体的な数字に落とし込みませんか。
※本記事の「藤井さん」の事例は、複数の実例をもとに再構成した架空のケースです。金額・期間は業種・地域・個人の状況により変動します。融資制度の内容は2026年7月時点の情報に基づいています。最新の条件は日本政策金融公庫の公式サイトでご確認ください。