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起業時に気を付けるべき18の魔の手

fundo編集部 ·
事業運営

起業した瞬間から、あなたは「狙われる側」になる。営業電話、うまい投資話、高額塾、善意を装った契約。事業が潰れる原因の多くはアイデアの失敗ではなく、こうした「魔の手」に気づかず握手してしまうことだ。この記事では、多くの起業家が実際に踏んできた18の地雷を、実例と回避策つきで全部並べる。読むのに20分。踏んでから知ると、数百万円と数年を失う。

POINT
  • 起業直後は「カモリスト」に載ったのと同じ。法人登記情報は公開されており、営業・勧誘が集中する
  • 魔の手の共通点は3つ。「急がせる」「書面を渋る」「仲の良さを強調する」
  • 迷ったら即断しない・書面に残す・第三者に見せる。この3つでほとんどの罠は回避できる
18の魔の手 — 全体マップ
  1. 第1章 契約・法律の魔の手
  2. 口約束と契約書なし取引
  3. 複数年リース・違約金契約
  4. 知らずに法律違反
  5. 商標の横取り
  6. 個人保証・連帯保証
  7. 第2章 お金の魔の手
  8. 調達した金をすぐ使う
  9. 補助金の「後払い」を知らない
  10. 低価格スタート
  11. 経理の後回し
  12. 節税商品・保険営業
  13. 第3章 人の魔の手
  14. 共同経営者の口約束
  15. 株式のバラマキ
  16. 早すぎる採用
  17. 投資家を名乗る人たち
  18. 高額起業塾・コンサル
  19. 第4章 集客・営業の魔の手
  20. 事業モデルなきマーケティング
  21. 交流会という時間泥棒
  22. 取り込み詐欺と代理店権商法
CHAPTER 01
契約・法律の魔の手 — 「サインした瞬間」に決まっている

魔の手 01口約束と契約書なし取引

契約書がないと、揉めたときは「言った・言わない」の水掛け論になる。負けるのは大抵、証拠を残していない側だ。しかも起業初期の取引相手は、こちらが個人事業・零細だと知っている。「契約書なんて大げさな」と言ってくる相手ほど、契約書が必要な相手だと思っていい。

売る側なら、作業範囲・修正回数・支払期日・キャンセル料を書いていないと無限に働かされる。買う側なら、口頭説明と納品物が違っても文句が言えない。契約書は相手を疑う道具ではなく、関係が良好なうちに、悪くなったときの終わり方を決めておくためのものだ。

実例 Web制作フリーランスのAさんは、知人の紹介案件を「30万円くらいで、だいたいこんな感じで」という口頭合意で着手した。納品直前に「トップのデザインを作り直して、ページも5枚追加で」と言われ、追加費用を請求すると「そんな話は聞いていない。全部込みだと思っていた」と拒否された。メールにも見積書にも作業範囲の記載がなく、争う材料がない。結局2ヶ月分の追加作業を無償で行い、時給換算では最低賃金を割った。以後Aさんは、5万円の案件でも発注書と作業範囲書を必ず交わすようにしている。
回避策金額に関係なく、作業範囲・金額・支払期日・キャンセル条件の4点だけは書面(メールでも可)に残す。「発注書1枚」で十分。嫌がる相手とは取引しない。

魔の手 02複数年リース・違約金契約

コピー機のリース、電話営業経由のWeb掲載サービス、看板・ウォーターサーバー・警備契約。開業直後の事業者には、こうした「月々は安く見えるが、総額と縛りが重い」契約の営業が集中する。法人登記の情報は公開されており、営業リストは登記直後から出回る。

複数年契約は多くの場合、相手の営業成績のための契約だ。中途解約時の違約金(残債一括・残期間の◯%など)を確認せずにサインすると、事業の方向転換すらできなくなる。

実例 整体院を開業したBさんは、開業1週間で複合機・ホームページ制作・電話回線・セキュリティの営業電話を計30件以上受けた。「開業者限定キャンペーン」を信じ、月2.5万円×60回の複合機リースと、月3万円×36回のホームページ管理契約にサイン。1年後、印刷はほぼコンビニで足りることに気づいたが、解約には残債約120万円の一括支払いが必要だった。ホームページ契約に至っては、解約すると「サイトの所有権は制作会社」でドメインごと消える契約になっていた。
回避策サイン前に「中途解約したら総額いくらか」を必ず計算する。答えを濁す営業は即帰す。可能な限り月額・単年契約を選び、「今日だけの特別価格」は全部無視していい。本当に必要なものは明日も買える。

魔の手 03知らずに法律違反

労働基準法、特定商取引法、下請法、景品表示法、個人情報保護法。多くの起業家はこれらを「大企業の話」だと思っているが、従業員を1人雇った瞬間、広告を1本出した瞬間から適用される。知らなかったでは済まない。

ありがちなのは、「必ず儲かる」「絶対に痩せる」といった断定広告(景表法・特商法)、返金規定なしの前払い受領、業務委託と言いながら実態は指揮命令している偽装請負、Web問い合わせフォームで集めた情報の目的外利用。どれも行政指導・課徴金・SNSでの信用失墜に直結する。

実例 オンライン講座を始めたCさんは、LPに「受講者の97%が成果を実感」と記載していたが、根拠は受講直後のアンケート12件だけだった。競合からの通報をきっかけに行政から根拠資料の提出を求められ(不実証広告規制)、提出できずに表示を全面削除。広告を止めた3ヶ月間、売上はほぼゼロになり、再開後もLPの主張を大幅に弱めざるを得なかった。スポットで弁護士に3万円払ってLPをチェックしてもらえば防げた事故だった。
回避策広告・契約書・雇用まわりは、出す前にスポットで専門家に見せる(1回1〜3万円程度)。顧問契約は不要。「数字で断定する表現」には必ず客観的な根拠データを持つ。

魔の手 04商標の横取り

屋号・サービス名・ブランド名は、先に使った者ではなく先に商標登録した者が勝つのが原則。事業が伸びてきた頃に、同名の商標を他人に取られ、名称の使用差し止めや金銭要求を受けるケースは実際にある。SNS・EC中心の事業ほど「名前=資産」なので、被害が大きい。

実例 独自ブランドの雑貨をECで販売していたDさんは、月商300万円まで育てた3年目に、ブランド名の商標を第三者が登録済みであることを知った。相手からは「使用を続けるならライセンス料、嫌なら商標を200万円で買い取れ」という趣旨の連絡。弁理士に相談したが、先使用権の立証はハードルが高く、結局ブランド名を変更。パッケージ・サイト・SNSアカウントの作り直しで100万円超の費用と、検索流入の大幅減を被った。出願していれば1区分あたり数万円で済んだ話だった。
回避策屋号・主力サービス名は、売上が立ち始めた段階で商標出願する(特許庁のJ-PlatPatで先行商標の無料検索が可能)。出願は自分でもできるが、区分選びは弁理士に相談する方が確実。

魔の手 05個人保証・連帯保証

法人化していても、融資や賃貸借契約、仕入取引で代表者個人の連帯保証を求められることは多い。安易に引き受けると、会社が潰れたとき、自宅と個人資産まで一緒に沈む。さらに危険なのは、他人の借金の連帯保証人になること。これは「他人の人生のリスクを無償で全額引き受ける」行為であり、起業家同士の付き合いの中で頼まれても、断るのが正解だ。

なお、経営者保証に関するガイドラインの浸透で、公庫・民間とも経営者保証なしで借りられる選択肢は広がっている。「保証が当然」という前提自体を疑っていい。

実例 飲食店経営のEさんは、同業の先輩から「銀行がうるさいから形だけ」と頼まれ、800万円の借入の連帯保証人になった。2年後、先輩の店は閉店し本人は自己破産。債務はそのままEさんに請求され、自店の運転資金から月々返済する羽目になった。「形だけ」の保証など存在しない。保証契約書の文言は、本人が返せないときに全額払う、それだけだ。
回避策融資では「経営者保証なしの条件」をまず確認する。他人の連帯保証は、金額・関係性を問わず断る。断れない関係なら、その関係の方を見直す。
CHAPTER 02
お金の魔の手 — 通帳残高は実力ではない

魔の手 06調達した金をすぐ使う

融資が振り込まれた瞬間、通帳の残高が一気に増える。ここで気が大きくなり、内装のグレードを上げる、広告を前倒しする、備品を「どうせ必要だから」と一括で揃える——これが典型的な死亡パターンだ。調達した金は売上ではない。返す金だ。

創業融資は「実績ゼロでも借りられる、人生で一番借りやすい金」であると同時に、次の融資(追加調達)は初回の返済実績と業績が見られる。初回調達分を計画外に使い切ると、赤字が続いたときの命綱がなくなる。

実例 カフェ開業で700万円の融資を受けたFさんは、計画では内装300万円だったところ、「せっかくなら」と造作にこだわり480万円を投入。さらに開業前に食器・什器をまとめ買いし、開業時点で残った運転資金は約80万円だった。開業後の売上は計画の6割で推移し、3ヶ月目に家賃と仕入の支払いが回らなくなる。追加融資を申し込んだが、「計画と資金使途が大きく乖離している」ことを指摘され減額。結局、開業から10ヶ月で閉店した。内装を計画通りに抑えていれば、少なくとも1年半は戦えた計算だった。
回避策調達額のうち固定費6ヶ月分は「ないもの」として別口座に隔離する。資金使途は計画書どおりに使い、変更するなら金額が動く前に金融機関へ相談する。

魔の手 07補助金の「後払い」を知らない

補助金の多くは精算払い(後払い)。採択されても金はすぐには来ない。先に自己資金で全額を立て替え、事業を実施し、実績報告と検収を通ってはじめて入金される。採択から入金まで半年〜1年かかることも珍しくない。

さらに、資金使途は申請計画に縛られる。人件費や別事業への流用など計画外の使い方は、最悪の場合返還命令+加算金の対象になる。「採択=もらえる」と誤解して資金繰りを組むと、採択されたのに倒産する、という笑えない事態が起きる。

実例 製造業のGさんは、ものづくり補助金の採択(補助額1,000万円)を受け、設備1,500万円を銀行の短期借入で立て替えた。ところが実績報告で見積書と発注書の日付の整合性を指摘されて差し戻しが重なり、入金は予定より7ヶ月遅延。その間、短期借入の返済期日が先に到来し、返済原資が足りず金融機関との条件変更交渉に追われた。補助金自体は満額入金されたが、「入金遅延を織り込まない資金繰り表を作っていたこと」が本当の敗因だったと振り返る。
回避策補助金は「1年後に返ってくるかもしれないキャッシュバック」として資金繰り表に載せる。立替資金の返済期日は、想定入金日より最低6ヶ月後ろに設定する。証憑(見積・発注・納品・支払)の日付順は開始前に確認する。

魔の手 08低価格スタート

「最初は安くして実績を作り、後で値上げすればいい」——これはほぼ幻想だ。安さで集まった客は、安さでしか繋がっていない。値上げした瞬間に離脱し、しかも安い客層ほど要求が多くクレーム率も高い傾向がある。最初の値付けが、その後の客層と事業の寿命を決める。

実績づくりが目的なら、「定価を明示した上でのモニター割引(期間・人数限定)」にする。定価の存在を最初から刷り込んでおけば、通常価格への移行は「値上げ」ではなく「割引の終了」になる。

実例 パーソナルジムを開いたHさんは、周辺相場が月3万円のところ月1.8万円で開業した。1年で会員は60人集まったが、収支はギリギリ。2年目に月2.4万円への値上げを通知すると、1ヶ月で会員の45%が退会し、口コミには「値上げした」と星1がついた。一方、同時期に開業した競合は最初から月3.5万円・少人数制で始め、会員数は30人でもHさんより利益が出ていた。Hさんは「60人の安い客より、30人の適正価格の客の方が、売上も労働時間も精神衛生も全部マシだった」と語る。
回避策値付けは相場〜やや上から始め、割引は必ず「定価つき・期限つき」で出す。「安くしてくれたら契約する」という客は、その後も値切り続ける客だと考えていい。

魔の手 09経理の後回し

売上づくりに追われ、記帳と資金繰り管理を後回しにする。これは地味だが確実に効いてくる毒だ。どんぶり勘定のまま進むと、「儲かっているのか」「あと何ヶ月もつのか」を誰も知らない状態で経営判断を重ねることになる。黒字倒産(利益は出ているのに現金が尽きる)は、この状態で起きる。

実例 ECと卸を並行していたIさんは、記帳を1年溜め込み、確定申告直前にレシートの山と格闘した。集計して初めて、卸事業は送料と決済手数料を引くとほぼ利益ゼロだったことが判明。1年間、赤字の事業に営業時間の半分を注いでいた。さらに消費税の納税額を全く積み立てておらず、納付のために予定していた設備投資を取りやめた。月次で数字を見ていれば、遅くとも3ヶ月目に気づけた内容だった。
回避策会計ソフトで銀行・カードを連携し、記帳は月1回・固定の日にやる。最低限「向こう3ヶ月の入金予定と支払予定を並べた資金繰り表」だけは毎月更新する。税金(消費税・所得税・社保)は売上の一定割合を毎月別口座に逃がす。

魔の手 10節税商品・保険営業

少し利益が出始めると、今度は「節税しませんか」の営業がやってくる。高額な生命保険、航空機・足場のオペレーティングリース、出所の怪しい節税スキーム。共通するのは、税金の繰り延べ(先送り)でしかないものを「節税」と呼び、手数料を抜いていく構図だ。

そもそも創業期に最優先すべきは節税ではなく、手元現金と、融資審査に耐える決算書だ。利益を圧縮しすぎた決算書は、次の融資の審査で自分の首を絞める。

実例 3期目で利益が出たJさんは、保険営業に勧められるまま年払い200万円の経営者保険に加入した。翌期、大口取引先の入金サイトが延びて資金繰りが悪化。保険を中途解約したが、解約返戻金は払込額の6割で、実質80万円を失った。しかも直近決算は保険料で利益を圧縮していたため、銀行からの運転資金調達でも「収益力が弱い」と評価され減額。「節税」のつもりが、現金と信用の両方を減らしていた。
回避策「節税」という言葉が出たら、「それは減税か、繰り延べか」「解約時にいくら戻るか」「売る側の手数料はいくらか」の3つを聞く。答えられない商品は買わない。迷ったら、売り手と利害関係のない税理士に見せる。
CHAPTER 03
人の魔の手 — 「いい人」が一番高くつく

魔の手 11共同経営者の口約束

「気が合うから」「昔からの友人だから」で共同経営を始め、役割・報酬・撤退条件を決めずに走り出す。最初の半年は問題ない。問題は、うまくいき始めたとき、あるいはうまくいかなくなったときに一気に噴き出す。「仲がいいから大丈夫」は、警戒すべきフラグの筆頭だ。仲がいいからこそ、揉めたときの取り決めを気軽に話せるうちに文書化しておく必要がある。

実例 大学の同級生と2人で会社を始めたKさんは、株式50:50、役割も報酬も「その都度話し合い」で1年進めた。事業が伸び始めると、「営業を取ってくる自分の方が貢献している」「いや、納品を全部回している自分だ」の対立が表面化。50:50のため株主総会は何も決められず、役員報酬の変更すら合意できない完全なデッドロックに陥った。弁護士を挟んだ解散協議に8ヶ月と約150万円を費やし、事業は係争中に取引先が離れて空中分解。「創業時に1日かけて株主間契約書を作っていれば、全部防げた」というのが2人の一致した唯一の結論だった。
回避策共同創業なら、①持株は50:50を避け決定権の所在を明確に、②役割・報酬・評価方法、③どちらかが抜けるときの株式の扱い(買取価格の算定式まで)を株主間契約書にする。雛形+専門家チェックで10万円前後。ケンカの費用より2桁安い。

魔の手 12株式のバラマキ

「手伝ってくれたから」「世話になったから」で株式を安易に渡すのも危険だ。株式は一度渡すと、相手が働かなくなっても、連絡が取れなくなっても、原則戻ってこない。そして少数株主にも帳簿閲覧などの法的な権利があり、増資・売却・重要な意思決定のたびに影を落とす。2/3(特別決議)・1/2(普通決議)・1/3(拒否権)のラインの意味を知らずに配ると、自分の会社なのに自分で決められなくなる。

実例 創業メンバー4人で25%ずつ株式を分けたLさんの会社は、1人が半年で音信不通のまま離脱。3年後、事業が成長しVCからの出資話が来たが、デューデリジェンスで「連絡不能の株主が25%保有」が問題視され、出資は「株式の整理が完了したら」の条件付きに。元メンバーの所在を探し、株式買取の交渉に1年、買取費用は当初出資額の40倍に膨れた。ベスティング(在籍期間に応じて株式が確定する取り決め)を入れていれば、離脱時点でほぼ無償で回収できていた。
回避策創業者以外に株を渡すなら、ベスティング条項と、退職時の買取条項(価格算定式込み)をセットにする。貢献に報いたいだけなら、株ではなくストックオプションか現金で。

魔の手 13早すぎる採用

売上の型(誰に・何を・いくらで・どう売れば黒字か)が固まる前の正社員採用は、事業を潰す固定費になる。人件費は一度発生すると簡単には下げられず、社保・採用費・教育コストを含めると額面給与の1.5倍前後が毎月出ていく。「忙しいから人を」の前に、その忙しさが利益を生んでいるかを確認すべきだ。

実例 受託開発のMさんは、案件が重なった時期に月給35万円でエンジニアを1名採用した。社保込みの実負担は月約42万円。ところが3ヶ月後に大口案件が終了し、稼働は半分に。それでも人件費は満額出ていき、6ヶ月で貯めていた運転資金250万円をほぼ使い切った。退職勧奨は本人と揉め、解決金を払って合意退職。「あの局面で必要だったのは正社員ではなく、繁忙期だけの業務委託だった」と振り返る。
回避策初期の人手は業務委託・外注・パートで賄い、「その人の人件費を12ヶ月払っても黒字」の確信が持ててから正社員化する。試用期間は儀式にせず、合わなければ期間内に判断する。

魔の手 14投資家を名乗る人たち

交流会やSNSには「投資家」「エンジェル」を名乗る人が大量にいる。もちろん本物の誠実な投資家もいる。だが、出資を餌に高額コンサル契約を売る人、実質は高利貸しの契約を仕込む人、経営権を握りにくる人が混ざっているのが現実だ。見るべきは肩書ではなく、契約書の中身と過去の投資先の生の声。

投資契約書で金額より先に読むべきは、議決権・拒否権事項・取締役選任権・買い戻し条項(業績未達時に創業者個人が株を買い戻す義務など)。ここに罠が仕込まれる。

実例 交流会で知り合った「エンジェル投資家」から500万円の出資提案を受けたNさんは、契約書を弁護士に見せた。すると、①出資と同時に月20万円の「経営指導料」を投資家側に支払う、②売上目標未達の場合、創業者個人が年利15%相当を上乗せした価格で株式を買い戻す、③投資家が取締役1名を指名し重要事項に拒否権を持つ——という条項が並んでいた。実態は「出資の形をした高利貸し+経営権の確保」。Nさんは見送り、後日、同じ人物から契約した別の起業家が買い戻し義務で個人債務を抱えたと聞いた。
回避策投資契約書は必ず弁護士(会社側の利益で動く弁護士)に見せる。数万円をケチらない。「過去の投資先を2〜3社紹介してほしい」と頼み、渋られたら終了。急かす投資家、契約前から経営に口を出す投資家も同様。

魔の手 15高額起業塾・コンサル

「半年で月商7桁」「私の言う通りにやれば失敗しない」。不安な創業期の心理を突いてくるのが高額塾・高額コンサルだ。全部が悪質とは言わないが、悪質なものには共通パターンがある。実績が「売上」自慢ばかりで利益と継続率を言わない、成功事例の当人と話させない、受講料の元を取るには次の受講生を紹介するしかない構造——これらが揃ったら、商品は「ノウハウ」ではなく「あなたの入会金」だ。

実例 会社員から独立準備中だったOさんは、SNS広告経由の無料セミナーから個別面談に誘導され、「今日決めれば30万円引き」と言われて88万円の起業塾に入会した。中身は録画教材と月1のグループ通話で、個別の事業相談は追加料金。半年後、同期の受講生で黒字化した人はゼロ、上位メンバーの収入源は塾の紹介報酬だった。Oさんは「88万円あれば、テスト販売と広告検証が10回できた。買うべきは答えじゃなく、試行回数だった」と語る。
回避策「今日決めれば割引」は全部断る(本物の教育は明日も売っている)。契約前に、①黒字継続している卒業生の実名事例、②返金条件、③特商法表記を確認。学ぶ金があるなら、まず小さく売ってみる方が学びは大きい。
CHAPTER 04
集客・営業の魔の手 — 頑張る方向を間違える

魔の手 16事業モデルなきマーケティング

儲かる仕組み(単価−原価−獲得コスト=残る利益)が固まる前に広告や営業へ全力投球すると、売れるほど赤字が膨らむ。「忙しいのに金がない」はほぼこれが原因だ。マーケティングは事業モデルの増幅器であって、壊れたモデルを直す道具ではない。

もう一つ。「誰もやっていないアイデア」に酔わないこと。誰もやっていない理由の大半は「儲からないから」だ。むしろすでに競合がいて顧客が金を払っているモデルに後発で入り、速さ・専門性・特定顧客への深さで差別化する方が、成功確率は圧倒的に高い。ゼロから需要を作るより、ある需要を奪う方がずっと簡単で安い。

実例 「ペット同伴可能なコワーキング」という未開拓コンセプトで開業したPさんは、初月に広告費50万円を投じたが、会員は8人。そもそも「ペットを連れて仕事をしたい」という需要自体が薄く、市場を教育するコストを個人で払い続ける形になり、1年で撤退した。一方、同じ市内で「よくある貸し会議室」に後発参入したQさんは、既に検索需要がある市場で「30分単位・完全無人・当日予約可」だけで差別化し、広告費月5万円で初年度から黒字。新しさではなく、すでに客がいる場所での小さな改善が勝った。
回避策広告を打つ前に、①1件売れたらいくら残るか、②1件取るのにいくらまで払えるか、を紙に書く。書けないなら広告はまだ早い。参入市場は「競合がいて、客が既に金を払っている」ことを条件にする。

魔の手 17交流会という時間泥棒

起業直後は不安なので、人脈を求めて交流会に通いたくなる。だが多くの交流会は、「客を探しに来た人」しかいない場所だ。つまり全員が売り手で、買い手がいない。名刺が増え、SNSの相互フォローが増え、なんとなく頑張った気になる——が、売上は1円も増えていない。この「頑張った感」が一番の毒だ。

さらに交流会は、魔の手14(自称投資家)や15(高額塾)の主要な狩場でもある。行くなら「見込み客がいる場」か「具体的な商談目的」に限定する。

実例 士業として独立したRさんは、最初の半年で異業種交流会に32回参加し、会費と懇親会代で約25万円を使った。獲得した顧客はゼロ。名刺の山を見返すと、9割が保険・不動産・コンサル・コーチ、つまり「売りに来た人」だった。7ヶ月目に方針を変え、見込み客である中小企業経営者が集まる業界団体のセミナーに講師側として登壇したところ、1回の登壇で顧問契約が2件決まった。「客がいる場所に、売り手ではなく専門家として立つ」だけで結果が反転した。
回避策参加前に「この場に自分の見込み客はいるか」を問う。いないなら行かない。行くなら名刺配りではなく、登壇・主催側に回る。交流会で出会った「うまい話」は、その場で決めずに全部持ち帰る。

魔の手 18取り込み詐欺と代理店権商法

最後は、起業家を明確に「獲物」として見ている連中の話だ。代表格が2つ。取り込み詐欺——最初は少額の取引を現金即払いで重ねて信用させ、大口注文を掛け払いにした途端に姿を消す。そして代理店権・独占販売権商法——「この地域の独占権を◯百万円で」と権利を売りつけるが、売れる仕組みも本部のサポートも実体がない。フランチャイズ契約でも、売上予測が過大なまま加盟金だけ取る悪質なケースがある。

共通するのは、相手から先に「信用の証拠」を出してくること。立派なオフィス、有名人との写真、最初の数回の誠実な取引。信用は演出できる。演出できないのは、登記情報・決算・支払いの履歴・第三者からの評判だ。

実例 食品卸を始めたSさんは、新規の取引先から数万円の注文を3回受け、いずれも即日入金された。4回目に「イベント用に大口で」と250万円分の注文が入り、これまでの実績から月末締め払いを了承。納品後、支払日に連絡が取れなくなった。事務所はレンタルオフィスで既に退去済み、登記を調べると設立4ヶ月の会社だった。後の調べで、同じ手口の被害者が複数いたことが分かる。設立年月日と決算公告を最初に確認し、初回大口は前金か与信保険を条件にしていれば防げた。
回避策新規取引先は、登記(設立年・所在地・役員変更の頻度)と評判を必ず調べる。取引額を急に上げる相手には、前金・保証金・取引信用保険を条件にする。「独占権」「代理店権」は、その権利で実際に儲かっている既存代理店に直接会わせてもらえない限り、買わない。

まとめ魔の手に共通する3つのサインと、3つの防御

18個並べたが、実は魔の手の手口はワンパターンだ。①急がせる(今日だけ・限定・早くしないと)、②書面を渋る(信頼関係でやりましょう・細かいことは後で)、③関係性を強調する(仲がいいから・紹介だから・あなただから特別に)。このどれかが出たら、内容が何であれ一度立ち止まっていい。

防御もシンプルだ。即断しない。書面に残す。利害関係のない第三者に見せる。この3つを徹底するだけで、この記事の18の魔の手は、ほぼすべて回避できる。

保存版 — 契約・支払いの前に確認する10項目
  • 作業範囲・金額・支払期日・キャンセル条件は書面にあるか
  • 中途解約したら総額いくら払うことになるか計算したか
  • 広告・契約書・雇用まわりを専門家にスポットで見せたか
  • 屋号・主力サービス名の商標を確認・出願したか
  • 個人保証・連帯保証を求められていないか(代替案を聞いたか)
  • 調達資金のうち固定費6ヶ月分を隔離したか
  • 補助金の入金時期を資金繰り表に正しく(遅めに)載せたか
  • 値付けに「定価」を残し、割引は期限つきにしたか
  • 共同経営者・出資者との取り決めを契約書にしたか
  • 「今日だけ」「仲がいいから」と言われて即決しようとしていないか

本記事に登場する人物・企業名はすべて解説用の架空の事例です。実在の個人・団体とは関係ありません。また、法律・税務・投資契約に関する最終判断は、必ず弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。

NEXT STEP
その契約、サインする前に一度見せてください

契約・資金繰り・株式設計。どれも、踏んでから直すのが一番高くつきます。

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