起業はレッドオーシャンを狙うべき
「ブルーオーシャンを探しています」という相談は、これまで何度も受けてきました。気持ちはわかります。競合がいない市場で勝負したい。でも実際に成功しやすいのは、たいてい逆です。競合がひしめくレッドオーシャンのほうが、初めての起業では圧倒的に勝ちやすいというのが結論です。
- ブルーオーシャンは「市場が本当にあるか」を自分で証明しなければならない
- レッドオーシャンは、競合が存在すること自体が需要の証明になっている
- 競合がいる=その競合を使っている会社がわかる=営業リストがすでにある
- 完全無欠なサービスは存在しない。弱点を1つ潰せば置き換えは起こる
- 初めての起業なら、ブルーオーシャンよりレッドオーシャンを選ぶべき
「市場がない」は「見えていないだけ」かもしれない
ブルーオーシャン戦略という言葉が一人歩きして、「競合がいない市場を見つけること」自体がゴールになっている起業家をよく見かけます。でも冷静に考えると、競合がいないという状態には2つの可能性しかありません。①本当にまだ誰も気づいていない有望な市場か、②すでに何社も挑戦して、うまくいかないとわかって撤退した市場か。外から見ただけでは、どちらなのか判断がつきません。
仮に①だったとしても、そこから先が長いです。「そのサービス、そもそも何ですか」という説明から始めなければならない。営業先のリストもない。誰が買うのかも仮説でしかない。需要の検証コストを、全部自分ひとりで背負うことになります。
競合がいるということは、顧客リストがすでにあるということ
レッドオーシャンの最大の利点は、「その競合を使っている会社が、具体的に誰なのかわかる」ことです。競合にお金を払っている企業が存在する時点で、需要の証明はもう終わっています。あとは、その顧客をどう奪うかだけを考えればいい。
広告業界は、これが特にやりやすい業界です。「Meta広告ライブラリ」を使えば、Facebook・Instagramに広告を出している会社と、実際に配信中のクリエイティブがそのまま見られます。「Google広告の透明性センター」を使えば、検索広告やYouTube広告を出している会社が同様にわかります。どちらも無料・登録不要です。「広告費を払う予算がある」「集客に課題を感じている」という2つの条件を、出稿しているという事実だけですでに満たしている。営業先を探す手間が、他業界より圧倒的に少ないわけです。
これは広告業界に限った話ではありません。業界ごとに「競合の顧客リストが公開されている場所」は違いますが、探せば必ずどこかにあります。
| 業界 | 競合の顧客がわかる場所 | 見るべき情報 |
|---|---|---|
| 広告代理店 | Meta広告ライブラリ/Google広告の透明性センター | 出稿企業名・クリエイティブ・出稿期間 |
| 建設業 | 自治体の電子入札システム・入札結果公告 | 落札業者・工事種別・金額 |
| 税理士・社労士などの士業 | 商工会議所の会員名簿・決算公告(官報) | 業歴・法人設立時期・顧問契約の切れ目 |
| 食品加工業(OEM先の開拓) | 展示会(FOODEX JAPANなど)の出展社リスト・商品パッケージの製造者表示 | 取引先企業・取扱品目 |
どの業界にも、競合が誰と取引しているかを示す「公開された名簿」が存在します。まずそれを見つけることが、レッドオーシャン攻略の出発点です。
完全無欠なサービスは存在しない
競合がいるレッドオーシャンで戦うのを怖がる人の多くは、「もう良いサービスがあるのに、今さら入っていく意味があるのか」と考えます。でも、完全無欠なサービスというものは存在しません。どんなに強いプレイヤーでも、必ずどこかに弱点があります。対応が遅い、価格が不透明、小規模の事業者は後回しにされる、担当者が変わるたびに質が落ちる。そういう「あるある」の不満は、どの業界にも転がっています。
弱点を1つ埋めるだけで、業界全体を少し前に進めたことになります。競合を潰す必要はありません。「その1点だけ、うちの方がマシ」を作れれば、置き換えは起こります。
タイムマシン経営という補助線
レッドオーシャン戦略をさらに強くする考え方に、「タイムマシン経営」があります。すでに海外や他地域で実績が証明されているビジネスモデルを、まだそれが広がっていない市場に先回りして持ち込む手法です。ソフトバンクの孫正義氏が1996年に米Yahoo!と合弁で日本にヤフーを設立したのが、代表例としてよく語られます。
古い例で言えば、セブンイレブンもそうです。もともとは1920年代に米テキサス州の氷販売店が食料品を扱い始めたのが始まりで、それをイトーヨーカ堂がライセンス契約で日本に持ち込み、1974年に1号店を出店しました。「コンビニエンスストア」という業態そのものが、海外で証明済みのモデルを日本に持ち込んだ結果です。
もう少し新しい例だと、靴の通販サイト「ロコンド」があります。米国の靴ECサービス「Zappos」がやっていた「24時間365日対応・送料無料・何度でも返品OK」という、当時のEC業界の常識を覆すカスタマーサービスをモデルに日本で立ち上げ、成功しています。まさに本記事で触れた「業界の弱点を1つ突く」を、海外の実例をお手本にしてやった形です。
これは、レッドオーシャンとブルーオーシャンのいいとこ取りです。他所ではすでに競合がひしめくレッドオーシャンでも、自分がこれから参入する市場・地域ではまだ誰もやっていない、という状況を作れる。需要の証明はすでに他所で終わっている。でも自分の市場では先行者になれる。この二重構造が作れると、起業の勝率はかなり上がります。
秋田のような地方であれば、都市部や海外ですでに一般化しているサービス・業態が、まだ本格的に入ってきていないケースは珍しくありません。移動販売のサブスク化、単身高齢者向けの家事代行、クラウド型の経理代行など、都会ではとっくにレッドオーシャンでも、地方ではまだ数社しかやっていない、という時差はいくらでも見つかります。
では、具体的にどう動くか
レッドオーシャンで戦うと決めたら、やることはシンプルです。
- 競合を使っている会社・個人をリストアップする(広告業界なら、出稿企業を検索やSNS広告ライブラリで洗い出す)
- その競合に対する不満点を拾う(口コミ、SNS、直接ヒアリング)
- 不満点1つに絞って、そこだけ強いサービスを作り、置き換え提案として営業する
加藤さんは前職が広告代理店の営業で、独立して一人で広告運用代行を始めました。最初にやったのは、Meta広告ライブラリで地元の飲食・美容系の会社を検索し、すでに広告を出している20社弱をリストアップすることでした。
そのうち10社に「広告の効果、実感できていますか」と直接聞いて回ったところ、共通していたのは「月次レポートが専門用語だらけで何を言っているか分からない」という不満でした。大手代理店にとっては小さな声ですが、加藤さん個人にとっては十分な差別化ポイントです。
やったことは、レポートを1枚のグラフと「今月やったこと・来月やること」だけのシンプルな形式に変えて、運用開始前に無料サンプルとして見せたことだけです。半年で3社が大手代理店から乗り換えました。
ポイントは、全方位で勝とうとしないことです。全部で勝てるなら、その競合はとっくに市場を独占しています。1点突破で十分です。
価格だけを差別化軸にすると、体力のある大手に負けます。レッドオーシャンで戦うときほど、価格以外の弱点(対応の速さ、専門性、小規模事業者への向き合い方など)で差をつける必要があります。価格勝負は最後の手段だと考えてください。
あります。設備投資や資本力がものを言う装置産業、大量仕入れが前提の業種は体力勝負になりやすく、初めての起業には向きません。逆に、人の対応力・専門知識・スピードで差がつく労働集約型のサービス業は、レッドオーシャンでも十分に勝ち筋があります。
※ 本記事は起業戦略の一般論として書いています。加藤さんの例は複数の相談事例を組み合わせた仮想のケースです。実際の参入判断は、業界構造・競合の資本力・自己資金の状況によって変わります。個別の事業モデルのご相談は、下記からお気軽にどうぞ。
2,000件超の起業家面談で見てきた「置き換えられた理由」「置き換えられなかった理由」をもとに、あなたの市場での勝ち筋を一緒に考えます。
無料で相談する